失着点・展界編 61
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アキラからメールを受ける事は非常に少ない。あったとしても大抵は事務的な
伝達事項の羅列で終わる。その時も、結局今夜は自宅に門下生らが集まって
イベントの内容等の結果報告することになりそうだと言う事と、明日は
午前中は棋院会館で用事があり、午後は「囲碁サロン」にいるという事が
記してあった。何故電話に出ないのだとか、そういう問いかけは一切無い。
「…つまり、塔矢も今夜はアパートに行けないってことか…。なんだ…。」
ヒカルはベッドの上に大の字になってフーッと息をついた。
今夜は、アキラに会えない。その結論だけは出たのだ。
ヒカルはすぐにメールの返信をした。
塔矢家の廊下で、アキラは携帯を見つめヒカルからの返事を待っていた。
着信音がなり、すぐにメール欄を開く。『わかった』という短い返事が
そこにあった。
「…進藤…、…何かあった…?」
アキラは携帯電話を強く握りしめた。
次の日、ヒカルは少し早めに出かける準備をしていた。駅前の碁会所に寄って
一度アキラに会っておこうと思ったのだ。伊角には「道玄坂」で待ち合わせる
よう連絡をするつもりでいた。
すると玄関のチャイムが鳴り、しばらくして母親がヒカルを呼んだ。
「ヒカル、伊角さんよ。」
リュックを肩に掛けようとしていたヒカルの表情が一瞬強張った。
あと少し早く、家を出るべきだった。重い気持ちで靴を履き、玄関を出る。
「…どこかに出かけるところだったのかい…?進藤…。」
確信犯的な目つきをした伊角が、立っていた。
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