Linkage 61 - 62


(61)
「………はァッ……はぁ…おが…た…さん……?」
 身体が離れたことが不安なのか、アキラは掠れた涙声で緒方の名を呼んだ。
緒方はアキラの顔の両脇に肘をついて、上にそっと覆い被さると、自分を呼ぶアキラの
顔を覗き込む。
涙で潤んだ瞳は、やや焦点が合ってきたのか、緒方の顔をかろうじて捉えている。
「呼んだかい、アキラ君?」
 汗で顔に貼り付いた黒髪を掻き上げてやりながら、緒方は囁いた。
何かを訴えるような愁いを帯びた表情と、指先が触れる頬の想像以上の熱さに、
一瞬、胸が締め付けられる。
アキラはおずおずと右手を上げ、震える指で緒方の頬に触れると、微かに唇を動かした。
「……何て言ったんだい?もう一度言ってくれるかな?」
 緒方はアキラの額を優しく撫でながら、唇に耳を寄せた。
「……おがた…さ…ん……どう…し……て……?」
 アキラがなんとか声を振り絞って放ったその問いかけに、緒方は再びアキラを見つめながらも、
声を失った。
大粒の涙がアキラの双眸からこぼれ落ちる。
「…………それは……」
 なんとか口を開きはしたものの、後に続く言葉などあるはずもない。
緒方はやるせない思いを抱いたまま、アキラの額に当てていた手を離すと、指先でこぼれ
落ちた涙の軌跡をなぞり上げた。
「……えっ!?」
 ふと、自身の頬に触れていたアキラの右手が髪の中に差し入れられ、緒方は驚いて思わず
声を上げた。
アキラの手は、力こそ弱いものの、しかし確実に緒方の顔を自分の方に引き寄せようとしている。


(62)
「……おがたさん……」
 アキラははっきりと緒方の名を呼ぶと、髪の中に差し入れた手にグッと力を込め、
顔を起こした。
呆然とする緒方の唇に、自分の唇を重ねる。
アキラのもう片方の手は、いつの間にか緒方の背に回され、バスローブをきゅっと
掴んでいた。
 緒方は熱くとろけるように柔らかなアキラの唇が、自身の唇を塞いでいることに
ようやく気付くと、アキラを強く抱き寄せた。
唇の熱を奪い取るかのように更に深く重ね合わせ、酸素を求めて開かれた僅かな
隙間を縫って舌を滑り込ませる。
口腔内に侵入した異物をアキラは素直に受け入れ、情熱的に自らの灼熱する舌を絡ませた。
 アキラの行為が何を意図するのか、そしてアキラが何を望むのか、緒方には皆目
見当がつかなかった。
ただ、アキラの望むままに唇を重ね、その口腔内を激しく貪り続ける。
(訊きたいのはオレの方だ)
 先刻のアキラの問いかけで、一度は押さえ込まれていた緒方の獣性が、再びその姿を
露わにしていくのをもはや止める術はない。
どこにそんな力が残されていたのか、信じられないような強さで緒方を抱きしめ、
塞がれた唇の隙間から甘い鳴き声を漏らすアキラの媚態に、緒方はただ溺れることしか
できなかった。



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