平安幻想異聞録-異聞-<外伝> 61 - 62
(61)
「馬鹿な勇み足で、不覚をとったよ」
ヒカルは、袋を調べている検非違使達の方を気にしながら、苦々しさを押し
殺して笑ってみせる。
不意に、ヒカルの体を調べていた検非違使の手が止まった。
橋のたもとの方を見ていたヒカルはそれに気付き、目の前の検非違使に
視線を戻す。
彼は下をじっと凝視している。
その視線の先には、単衣の間からのぞくヒカルの腿があった。その内側に
こびりつく、いく筋もの白い粘液の跡が、松明に照らし出されて、妖しげに
光っている。
しまったと思って、あわてて単衣の裾で隠した。気付かれただろうか?
検非違使は、黙って再びヒカルの顔に目線を戻すと
「切り傷はないようだが、打ち身はどうだ?」
と、尋ねてきた。内心でほっと溜め息をついてヒカルが答える。
「うん。頭の後ろ、殴られて……」
検非違使の手がヒカルの後ろにまわって、髪をかきわけた。
「この辺か?」
「もっと左かな」
「ここか?」
鈍痛に思わず顔がゆがむ。
「うん、そこ」
「そうか」
そう答えると、検非違使は手をさらに下に移動させた。それはさらにヒカルの
首筋を伝って、泥で汚れた単衣の襟から、背中へと進入する。
ヒカルは、その動きの意味がわからず、自分よりひとまわりほど年上の検非違使
を見上げた。
背中を戦慄に似たものが駆け抜けた。
その検非違使は、暗い目をしていた。
ヒカルがよく知っている目だ。さっきまでだって、同じ目の色をした男が三人、
ここにいて、ヒカルを嬲っていたのだ。
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唾を飲み込んで、ヒカルはその検非違使の前から身を引こうとした。
「怪我を看てやろうというのに、何故逃げる」
検非違使はもう片方の手に持っていた松明を投げ捨て、ヒカルの腕を引っ張っ
て、それを押しとどめた。
流れの中に落ちて、松やにの焦げる匂いとともに、ジュッという音を立てて
松明が消える。
怪我を看るのに、松明の火もなしでどうしようと言うんだと、ヒカルの方が
聞きたかった。
検非違使の手が自分の背筋を撫で回している。
いまだに自分のおかれた状況が信じられすにいた。
助けを求めて、橋のたもとの方を見る。すると、あとの三人の検非違使も
いつのまにか、ヒカル達の近くに来ていて、立ったままこの状況を
見下ろしていた。
彼らが手にした松明の火が、彼らの情欲をたたえた瞳の色を、残酷に
闇の中に照らし出していた。
――すべては無言のまま行われた。
逃げ出そうと立ち上がったヒカルを、松明を放りだした検非違使達が
とりひしぐ。
背に馬乗りになった男が、その単衣に手をかけ、肩を剥き出しにする。
ヒカルの抗うその手は、いつの間にか、罪人を縛る綱によって後ろに
戒められ、仰向けに転がされたその体の上を四人の男の手が這い回っていた
せせらぎと、立ち枯れた野の草が川風に揺れる音だけ耳障りに響く河原で、
ヒカルは四人の検非違使に犯された。
いや、犯されたというのは正しくないのかもしれない。なぜなら良くも
悪くも、それなりに上品な育ちをしている彼らは先の夜盗のように、
いきなりヒカルの中に進入する度胸などはなかったのだ。
男達はただ、自らの下肢を熱くする情火にしたがって、少年の体に手を
這わせ、若々しい汁気に満ちたその肌の味を堪能することに固着した。
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