失着点・龍界編 62
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ふいに沢淵の拳が顔面に向かってくり出され、緒方がそれを防ごうと
した時、立続けに膝を2発腹に入れられた。
緒方が前屈みになった時に沢淵がさらに顔面に一発入れようとしてきたが、
それを肘で防いで今度は緒方が沢淵の脇に膝を一発を入れる。
よろけた沢淵の顔にもう一発入れ、お返しに膝を腹に入れ、倒れかかった
沢淵の襟首を掴みもつれ合いになって互いに相手を壁にぶつけ合う。
そのまま激しい殴り合いとなった。
三谷が、黙ってそれを見つめていた。
ヒカルはまだ意識がはっきりしていない様子のアキラを抱き締めたまま
不安げに和室の方の様子を見遣った。
「…三谷?」
その時、ヒカルは三谷が手に何か隠し持っているのに気付いた。ヒカルの
手首に巻き付いているヒモは鋭利な刃物で切られた跡を残していた。
「…三谷…!」
ヒカルの胸を嫌な予感が過った。
…『お前はもっと強くなるぜ、それは間違いない。オレが
強くしてやる…。』
だが、与えられたものは本当の強さじゃなかった。大きく引き離すの
ではなく「もう一度やったら勝てるのではないか」と客に思わせる程度に
打つように指示された。相手が店にとってのお得意さんの時は勝つ事は
許されなかった。
―もう、そんな居場所は、いらない。
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