失着点・龍界編 62 - 63


(62)
ふいに沢淵の拳が顔面に向かってくり出され、緒方がそれを防ごうと
した時、立続けに膝を2発腹に入れられた。
緒方が前屈みになった時に沢淵がさらに顔面に一発入れようとしてきたが、
それを肘で防いで今度は緒方が沢淵の脇に膝を一発を入れる。
よろけた沢淵の顔にもう一発入れ、お返しに膝を腹に入れ、倒れかかった
沢淵の襟首を掴みもつれ合いになって互いに相手を壁にぶつけ合う。
そのまま激しい殴り合いとなった。
三谷が、黙ってそれを見つめていた。
ヒカルはまだ意識がはっきりしていない様子のアキラを抱き締めたまま
不安げに和室の方の様子を見遣った。
「…三谷?」
その時、ヒカルは三谷が手に何か隠し持っているのに気付いた。ヒカルの
手首に巻き付いているヒモは鋭利な刃物で切られた跡を残していた。
「…三谷…!」
ヒカルの胸を嫌な予感が過った。

…『お前はもっと強くなるぜ、それは間違いない。オレが
強くしてやる…。』
だが、与えられたものは本当の強さじゃなかった。大きく引き離すの
ではなく「もう一度やったら勝てるのではないか」と客に思わせる程度に
打つように指示された。相手が店にとってのお得意さんの時は勝つ事は
許されなかった。
―もう、そんな居場所は、いらない。


(63)
緒方と沢淵は両方肩で息をしながら相手を組み伏せようとしていた。だが
身長は同じだが若干体重で勝る沢淵が有利だった。緒方も若い時は多少荒れた
時代があり、この手の“手合い”の経験が決して少なくはない。それでも
踏んでいる場数が違う。緒方の拳よりも沢淵のそれが決まる率が高くなり、
緒方の膝が床に着いた。それでも緒方は沢淵の足にとりついた。
「…許さん…貴様は…」
その緒方の頭に沢淵は容赦のない膝蹴りを入れる。
緒方の体が畳を転がり壁にぶつかる。頭を抱えて呻く緒方に沢淵は近付く。
「おとなしく碁だけ打っていればよかったなあ、緒方先生よ。」
沢淵は緒方の右腕をとって締め上げると人さし指を逆方向に折り曲げた。
ポキリ、と乾いた音がした。
「う…ぐあっ!!」
「同じ門下として救出に来るとは見上げた仲間意識だな。…だが、本音は
意外と先生も彼の事が気に入ったんじゃないのかい?」
そう言って沢淵は無言で立っている三谷の方へ顎を指し示す。
「…お前らと一緒にするな…」
さらに中指も掴んで同じ方向に力を入れる。同じ音が響く。
「ぐううっ…っ!」
緒方の端正な顔だちが苦痛に歪むのを沢淵は嬉しそうに眺めていた。
「緒方先生…!!」
和谷と伊角が叫び、押さえ付けられていた男が笑いだした。
「残念だったな。お前らの正義の味方のヒーローさんはしばらく
石が持てなくなりそうだぜ…へへっ」
「くそ…ッ!」
和谷が怒りで収まらない様子で唇を噛んだ。



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