無題 第2部 63
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アキラが、それが何なのかわからない身体の熱を持て余していたのは確かだった。
だからこそ、今まではそんな事はしなかったのに、この部屋で彼の帰りを待っていた。
その熱を鎮めたくて。又はそれを煽って燃え尽きさせてしまいたくて。
だがそれは、あれ以来初めてこの男と、この部屋以外の場所で会ったからだと、そのための
熱なのだろうと、アキラは解釈していた。その答を確かめたくて、ここで彼の帰りを待っていた。
それなのに、考えてもいなかった人物の名を出されて、アキラは心底困惑した。
「関係ない…進藤なんか…なぜ…?」
「なぜ、だと?聞きたいのはこっちの方だ。
ついさっきは「緒方先生」なんて他人行儀な呼び方をしておいて、今は何だ?」
唐突に緒方は気付いた。あの「緒方先生」がなぜあんなにも苛立たしかったか。
二人きりの時はわざわざ相手を呼ぶ必要など無いから、気にかけた事もなかった。
だが、昔のアキラの、あの「緒方さん」という、幾分甘えるような呼び声。
あの声を最後に聞いたのはいつだったろう。
「おまえは一体どういうつもりでここに来ているんだ?おまえにとってオレは一体何なんだ?
オレの名を、呼びもしないくせに。おまえにとってはオレは溜まったものを出すためだけの、
ただのセックスの相手か!?」
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