平安幻想異聞録-異聞- 63 - 68


(63)
アキラは諦めず、そのヒカルの上半身をかばうように必死の風情で
自分の胸の中に抱きしめる。ヒカルの狩衣の肩が、アキラの血に染まって
黒く染みになった。
肉の蛇たちは、かまわずにノタノタとヒカルの膝の上に這い上がり、
ヒカルの腰を探り、腕にからみ、胸をたどる。
テラテラと淫液で光る体をくねらせる。
「……っあ、…やっあっ…!」
声を上げたのは、気色悪さのためであったが、その声音には思いがけない艶が
含まれていた。
ヒカルは自分でもそれに気付き、あわてて喉の奥にこみあげるそれを飲み込んだ。
肉の蛇はあるモノは指貫の隙間から、またあるモノは自ら布を噛み千切って
侵入路を作り、ヒカルの足に直に巻き付く数を増やしていく。
目的はあきらかだった。
「や、……だ……ふぁんっ!」
色を含んだ高い声は、異形の1匹がヒカルの幼い中心のモノに絡みついたからだ。
それは蛇が大きな獲物を飲み込む時、顎の骨を外すような風情でがばりと大きく
口を開くと、そのまま口の中にヒカルのモノを飲み込んだ。
ヒカルの体がビクビクと震えた。
「うあ、……っ」
そのままそれは、ヒカルの自身にくるりと体を巻き付けて、ゆっくりと
扱きはじめた。ヒカルの顎がそらされて、その喉の白さがアキラの目にさらされる。
「は…は……ぁ…賀茂…」
淫液を塗りたくられた上での、初めて施されるその口淫にも似た手管に、
いやおうなくヒカルの中心は勃ち上がり始め、ヒカルの息が早くなる。
動けないヒカルの爪が、切なげに床を掻いた。
アキラは、もう一度なんとか印を結ぼうと手をあげる。
その手により太い異形が絡みついてそれを阻止した。アキラの指に噛みつく。
自分の腕の中でヒカルが犯されていく様を前に、アキラには為す術がなかった。


(64)
まるで、空気そのものが岩のような重さを持って押しつぶしてくるようだった。
「くん……ん…ん……」
アキラの目の前で、単衣の襟や裾からも入り込んだ異形が、ヒカルの上半身に
所構わずとりつき、繊毛でさぐりながらその肌に、吸い付き、吸い上げる。
異形の蛇が垂れこぼした白泥色の淫液が、ヒカルの体を濡らしながら滑り落ちていった。
自分のそばには太刀がある。なのに、たったそこまでの距離、手を伸ばすことさえ、
今のヒカルには出来なかった。金縛り以前に、すでに体に力が入らない――神経が
淫液に侵され、ぞくぞくとするような甘いしびれが体中に広がっていくのがわかった。
魔性の快楽の暗闇に引きずりこまれる。
なおもヒカルの首筋に取りつこうとした異形を、アキラが重い手でつかみ、
引き離そうとする。異形が、鎌首を返し、すでに傷だらけになっているアキラの手に
傷を増やした。生暖かい血が、パタパタとヒカルの顔の上に落ちた。
賀茂アキラの血だらけになった腕が、すでに霞のかかり始めたヒカルの目に写る。
痛々しい、と思った。


(65)
「賀茂……、もういいから、…ぁ…、放せ」
苦しい息の下でヒカルが言った。
ヒカルを抱えた腕に力をこめて、アキラは黙って首を左右に振った。
「…んんっ!」
にゅるりとした冷えた肉の感触が、尻の割れ目から入り込んでくるのをヒカルは感じた。
細いヒゲでその場所を探っている。
それはしばらく、その辺りを圧迫するように愛撫し、淫液で穢した後、ゆっくりとした
仕草でヒカルの中に入り込んできた。ヒカルは自分でも驚くような淫靡な声を上げていた。
体が動くのだったら、背を弓なりに反らしていたほどの強烈な感覚だった。
血の気が引いていた肌は、快楽に流され、いつの間にか薄桃色に染まっている。
もう、駄目だ、とヒカルは思った。
見えない縄に戒められたように手足は動かず、そのくせ体の芯は、魔物から
こぼれ落ちる淫液に犯されて、燃えるように疼いている。
――これから訪れるだろう快楽の波に、きっと自分は逆らえない。
なら、せめて。
「見るな……、賀茂…」
ヒカルの中の淫魔の魔手は、その先端をより奥へと届かせようとしていた。
「は……頼むから、見るな……っ」
アキラはそれに答えて、そっと目を閉じた。
それが、アキラが今、ヒカルのために出来るたった一つのことだった。


(66)
アキラは、目を閉じ、ヒカルの上半身をきつく抱きしめながら、腕の中の
その体が熱くなるのを感じる。
「あ……あ……あぁっ…ん…」
その鼻にかかったような喘ぎ声は、アキラがいつも知っている気力に満ちた
ヒカルの闊達な声音からは想像がつかないほどに甘い蜜の艶。
目を閉じても、抱きしめた体の着衣の下に蠢く異形の動きが、アキラには
わかってしまう。
それはおぞましい体をすり付けるようにくねらせながら、思い思いの場所に
とりつき、ヒカルの精気を引きだしては、すすっていた。
体から力が抜かれていくようなその感覚に、ヒカルがか細い声を上げて啼く。
「ぁ……ぁぁ……ぁ……」
ヒカルが僅かに動く指先で、助けを求めるように、アキラの着物の裾を握った。
それを感じたアキラは、手探りで重い手を動かし、そのヒカルの指先を勇
気づけるように握りしめた。
異形のモノの思うままに僅かに立て膝のまま開かされたヒカルの両の足の間に、
妖魔がそのが魔手をのばし、太ももを這い、中心を扱き、1匹はヒカルの
腹の中への侵入を果たして、中の壁を頂点に達するのを即するように刺激する。
中のそれは、その白いヒゲでヒカルの媚肉をくすぐり感覚を高めた後、
淫液を塗りたくりながら、大きく体をねじった。
「ひぃっ…!っ……やんっ!…………」
背筋を駆け抜けた峻烈な刺激に、ヒカルの悲鳴があがる。
異形のまつろうヒカル自身のモノは、完全に勃ち上がらり、先端から
ヒカル自身の体液をあふれさせ始め、そこを濡らすのは魔物の淫液だけでは
なくなっていた。
中の魔物が、身をうねらせ、更に奥に淫液を送り込み、繊毛を使って強い力で
ヒカルの奥の壁にゴシゴシと塗り込む。
「はぁぁン……あっ!………ふぁ…」
中の弱い部分を散々にねぶられ、抗いようのない快楽に飲み込まれて、
ヒカルは蕩けるよな熱のこもった声を上げ続けた。


(67)
それは、魔物がヒカルの秘門に体を抜き差しする湿った音と共に、アキラの耳ニつく。
まるでアキラの無力を責めているようだった。
異形の蛇達の動きがグネグネと激しさを増す。
腕の中のヒカルの呼吸が急激に速くなり、火照った肌がさらに熱くなった。
ヒカルの肌が、断続的に大きく波打つ。
「……はっ!…あ!……あ!…あぁッ!」
腹の奥底から思わずといった風に押しだされた高い声があがる。
アキラの着物の裾を掴んでいたヒカルの指が震えた。
「あぁっ、やっ!やっ! はんっっ!!!」
その嬌声の振幅に合わせるように、指に力がこめられたり、抜かれたりしている。
やがて、自分の中でうねるモノに突き上げられて、奈落の底に落とされる感覚に、
ヒカルは淫声を上げながらひれ伏し、自分自身の露を放った。
それを待っていたのだとばかりに、ヒカルが吐き出した精液に異形のモノが群がり、
我先にとそれを啜る。
空気の重さがわずかに緩む。
ようやっと息がつけるようになった感覚に、アキラがひとつ大きく呼吸をする。
ヒカルもそれにならって、まだ熱さの残る息を吐きだし、力を失ってアキラの
腕の中からずり落ちそうになる自分の体を支えようと、わずかに体を返して、
アキラの胸にしがみついた。
しかし、その時、再び部屋の空気が重さを増し、二人の自由をうばった。
終わりではなかったのだ。
それまでヒカルの中にあったものが、満足げに舌なめずりをしながら体を引きぬくと、
また別のモノがグチャリと音をさせてヒカルの中に入り込んできた。
ヒカルの口から、うめき声とも喘ぎ声ともつかない小さな悲鳴があがる。
それはすぐに甘い艶を含んだすすり泣きに代わった。


(68)
どこかで最初のトリが時を告げ、賀茂邸の明かり採りの窓から、少しひんやりした
秋の朝の風が吹き込んだ。
ヒカルが意識を取り戻したのはアキラの膝の上でだった。
体中のどこにも力が入らない。まるで自分の体ではないようだ。
自分達は昨夜の姿勢のまま、アキラはヒカルの上半身をかばうように抱え込み、
ヒカルはその膝の上に体重を預けた姿勢で気を失っていたらしい。
灯明台は倒れ、寝所はぐちゃぐちゃに乱れ、部屋はひどい有り様だった。
「ぼくは何も見ていないから」
突然降ってきた声にヒカルは驚いて、目だけで自分の上にあるアキラの顔を見た。
アキラがつむっていた目をゆっくりと開いた。起きていたのだ。
「ごめん」
アキラがつぶやくように謝った。
何もできなくて、ごめん。と。



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