失着点・展界編 64
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…3人で指導碁?賑やか?
タクシーより地下鉄が速いと判断し「道玄坂」に向いながらアキラは考えた。
もしかしたら自分の思い過ごしかもしれない。ヒカルはただ携帯をどっかに
置きっぱなしにしたりして、マイペースにやっているだけかもしれない。
それならそれでいい。とにかく一度直接顔が見れればこの不安感は消える。
「道玄坂」という看板が出ているビルを見つけてエレベーターで上がり、
バンッとドアを開く。まだ人が少ない時間だったのか、静かに打っていた
数人の客らが怪訝そうに振り返った。
「と、塔矢アキラ…!?」
カウンターのところに居た夫婦が驚いたようにこちらを見る。
たった今自分が読んでいた日中の友好イベントの新聞記事を見ていた堂本も
その写真の本人を目の前にして興奮気味に声をあげる。
「何やってンだよマスター、色紙、色紙!」
中を見回すが、ヒカルの姿は見えなかった。
「突然ですみません。…あの、進藤くんは今日はこちらに来ていませんか?」
アキラの問いにマスターらと堂本で顔を見合わせる。
「進藤先生?一昨日は来てくれたけどねえ、今日はいないよ。」
「…そうですか…。」
気落ちしたように視線を落とすアキラを見て、マスターの後ろから妻が
ヌッと顔を出した。
「あの子ら、あの面子でまたこの辺の碁会所廻って遊んでるんじゃないの?」
その言葉にアキラは顔をあげる。
「思い当たる碁会所の場所を教えてくださいませんか。」
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