失着点・龍界編 64 - 65


(64)
その時ふわりと、赤い髪が沢淵の近くまで近付いていった。
「三谷!!、やめろー!!」
ヒカルの叫び声とほぼ同時に、顔を上げた沢淵に三谷が体当たりをするように
体をぶつけて二人で床に倒れ込んだ。
しばらく時がとまったように二人は動かなかった。
和谷達も一瞬何が起こったのか分からなかった。
ヒカルはアキラの頭を胸に抱きかかえていた。これ以上今のアキラに
ショックを与えるような場面を見せまいとするかのように。


「三谷、おまえ…」
沢淵は少し驚いたように、ゆっくり立上がった三谷を見上げる。
三谷は無表情に沢淵を見下ろしていた。
「う…」
折られた指を抱え緒方は立上がった。、蹴られた衝撃で頭を切り流れ出た
血で青色のシャツの肩口を黒く染めていた。そしてふらつきながら怪訝そうに
沢淵と三谷の方を見た。そして目を見張り息を飲んだ。
沢淵の腹部にナイフが突き刺さっていた。
だが、沢淵は騒ぐことなくなぜか嬉しそうに笑みを浮かべて三谷を
見上げていた。
「…“子猫”が、“虎”になりやがったか…」
三谷はただ黙って血に濡れた自分の手を見つめていた。
その目はやはり、虚無を見つめるように無表情だった。


(65)
病院で、ヒカルとアキラ、和谷と伊角、そして緒方は怪我の治療を受けた。
三谷も病院についてきていた。
沢淵は病院に運ばれて直ぐに手術を受けたが急所を外れ命に別状は
ないとの事だった。
連絡を受けて事情聴取に来た警察には緒方が対応した。
沢淵も意識があり聴取に素直に応じ、未成年者に対する暴行容疑を認めた。
―「…龍が…もう少しで手に入れられると思ったが…やはりオレには
無理だったか…」
自分の手を見つめてそう沢淵はくり返し署員たちの首を傾げさせた。
他の3人の男達は署に連行されて行った。
それでも一応、後からやってきた少年課の担当者に三谷はいろいろ話を聞かれ
今夜のところは帰宅を許された。
家族が駆け付けて来るまでの間、廊下の長椅子でヒカルとアキラは
寄り添い合うように座っていた。
救出されてから、アキラはずっとヒカルから離れようとせず診察台の上でも
ヒカルの手を握ったままだった。
ヒカルもまた決してアキラから離れようとしなかった。
長椅子の上でアキラが膝の上でヒカルの左手を両手で握り、ヒカルが右手で
アキラの右肩を抱き寄せていた。アキラは包帯を巻いた頭をヒカルの右肩に
もたれかけさせ目を閉じ、ヒカルはそのアキラの頭に顔をのせている。
そうしたまま二人とも動かなかった。
その姿でこの世に生を受けたように、一つの魂を二つの体で分け合ったように
二人は存在していた。



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