平安幻想異聞録-異聞-<外伝> 65 - 66


(65)
三谷は四人の検非違使の間に割り入って、ヒカルの姿を確認すると、その姿に
僅かに眉をひそめただけで、太刀を抜き、ヒカルの手を後ろに戒めていた縄を
断ってから、黙ってその体に自分の狩衣を掛けてくれた。
「お前ら、自分達がやったこと分かってんだろうな」
橙色の火に照らされて、ヒカルを犯した四人の検非違使をねめつける加賀の
表情は、鬼もかくやというほどの憤怒の色に染められていた。
「いいか、今夜の所は全員家に返って頭冷やしてこい。この事についての
 詮議は、明日落ち着いてからじっくりとしてやる。夜のうちに逃げよう
 なんて思うなよ。俺が地の果てまで追いかけて、必ず連れ戻すからな」
怯えた表情の四人の検非違使達が、それぞれの方へ散って、暗闇の中に姿を消す。
それを見届けて加賀は、馬を降り河原に座り込むヒカルに歩み寄ると、かがんで
いきなりその狩衣の胸ぐらをつかんだ。
「おまえも、おもえだ」
その声には押し殺した怒りがあった。
「物欲しそうな顔して、ほっつき歩いてんじゃねぇよっ」
ヒカルは、その言葉の意味を受け取りかねて、見下ろす男の顔を大きな目で
見返した。
「そいつをどうにかするまで――しばらく、検非違使庁には出てくるな!」
言葉は、この夜の男達のどんな陵辱よりも、ヒカルの心を深くえぐった。


今夜の捕物に参加するかと近衛ヒカルに言ってしまった時、加賀もしまったと
思ったのだ。
本当はヒカルを松虫捕縛に参加させるつもりは、さらさらなかった。
なのに、久々の大仕事に気持ちが高揚していたのか、うっかり口をすべらせて
しまった。
ヒカルはこの数日、明らかに様子がおかしかった――否。
おかしかったのは奴のまわりだ。あいつが検非違使庁に顔を出すたび、庁内が
奇妙な空気に包まれるのにあいつは気付いていただろうか?


(66)
検非違使の中でも筒井のように色事に極端に鈍い奴や、三谷のようにそれなりに
近衛に近しい奴、あるいは淡泊なやつは別として、かなりの人間が気付いて
いたはずだ――あの滴るような近衛ヒカルの色気に。
加賀自身も、随分以前から「男のくせに、時折、小さな動作に妙な艶のある
やつだ」と言う風に、近衛ヒカルを認識はしていた。ついでに言うとその
理由も、噂に聞いて知ってはいた。
だがこの数日ほど、それを意識させられたことはなかった。
筒井の後ろから書き物を覗き込む近衛ヒカルの肩の線を眺めながら、今まで
自分が抱いた女達とどちらが抱き心地がいいだろうと比べている自分に
気付いて、あわてて頭を振ってその妄想を追い払った。
男色の気のない自分でもそうだ。他の奴等の目に、近衛ヒカルはいったい
どういう風に映っていることか。
だからこそ、うっかりこの捕物にヒカルを誘ってしまった後、加賀は思案に
思案を重ねていたのだ。
実際に、夜道を一人で歩かせられないと思った。男相手に何を考えてるんだと
思ったが、それほどに今の近衛ヒカルは、あぶなっかしく見えた。
まだ妻さえないのに、まるで一人娘をもった父親の気分だ。
大体が、検非違使の仕事はふたり一組で当たらせていたが、その相手の
人選にも頭を痛めた。
下手な相手と組ませて、その肝心の相棒役に暗闇で妙な気分になられては
元も子もない。
結局、検非違使庁内でもあの筒井以上に色事に疎く鈍そうな古瀬村を選んだ。
だから、その古瀬村がたった一人で松虫捕縛の現場に現れたとき、すぐに
近衛ヒカルの行方を問いただし、加賀は三谷を連れ、闇に包まれた右京の
はずれに探索に出たのだ。
その時は、まだあの年下の検非違使が、少しばかり血気にはやって、他の
松虫の部下でも追いかけていってしまったかと思う程度だった。



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