失着点・展界編 66
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最初は軽く触れ合わせるように、そして次第に互いに貪りあうように
舌を絡め合わせる。もう随分長い間離れていたような気がした。
久し振りのアキラの唇は、どんな高価な果実よりも甘くて柔らかな気がした。
「…今夜…来てくれるよね…。」
唇が離れた僅かな合間にそう言って、ヒカルの頬を両手で挟んで更に深く
結びつこうとして来る。アキラの勢いにじりじりとヒカルが後退し、
階段の屋上に上がった部分の建物の壁に背中が押し当たる。
「ま、…待って…」
「あ、ごめん…」
アキラは自分が押してヒカルがどこか痛がったのかと思い、慌てて離れた。
「イベントの事とか、話したい事がたくさんあるんだ。向こう式の戦略とか、
面白かった。」
ヒカルは壁にもたれたまま、そう話すアキラを見つめた。アキラもまた、
ヒカルを真直ぐ見つめている。アキラの瞳は前へ前へと先へ辿り着こうとする
光で溢れている。できればその光を損ないたく無い。
「…今夜は、行けない…。」
「…え?」
「…今度の手合いが終わるまでは、お前のとこに行かない。」
「何故なんだ、進藤。」
納得がいかないという表情をするアキラに対し、ヒカルは使う言葉に迷った。
「だ、大事な手合いだからだよ。オレ、もう絶対落としたくないし…」
「だったらボクと打てばいい。何局でもつき合うよ。」
「そうじゃなくて…」
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