失着点・龍界編 66 - 70


(66)
少し離れた所でそんな二人を見つめている三谷がいた。
和谷と伊角がそんな三谷の姿に気付いて和谷が声をかける。
「…うらやましいだろう、あいつら…。」
和谷と伊角が何かとても大切なものを見守るように長椅子の二人を見る。
「ああ…」
三谷もまた、同じようにヒカルとアキラを見つめる。
「三谷、…お前がああしなかったら、オレがやっていたかもしれない。
でなければ進藤がやってた。でもそんなマネだけは絶対あいつにさせたく
ないからな…」
「…何のことかな…」
和谷の言葉をはぐらかすように三谷はとぼけると廊下を立ち去っていった。
和谷と伊角もお互い見合わすと、ヒカル達に声をかける事無くそっとその場を
離れていった。

その二人と入れ違うようにヒカルとアキラのところに近付いてきた人影の
足音がヒカル達のすぐそばで止まった。
ヒカルはその相手を見ず、目を閉じたままのアキラの肩をグッと
より強く抱いた。
「…心配するな、進藤。誰ももう君からアキラ君を引き離したりしないよ。」
耳なれたその声に、おそるおそるヒカルは視線を上げる。ヒカルと同じ
ように顔の数カ所に大きく絆創膏を貼られた緒方が優しく笑んで立っていた。
右手には手首まで包帯に覆われている。結果的に沢淵とまともにやり合った
緒方が最も重傷を負ったこととなった。


(67)
病院内の別の場所で、今まで緒方は二方の両親を説得していた。
『今夜はあの二人を一緒にしておいてあげるべきだ。…というより、絶対に
今あの二人は引き離すべきじゃない…。』
身を呈して子供達を救出してくれた緒方の言葉に両方の親が折れた。
ヒカルの母親は多少不満そうだったが父親が説得した。
行洋はただ緒方に頭を下げた。緒方は首を横に振った。
『アキラ君は被害者です。…そして、アキラ君を救えるのは進藤君しか
いません…。』
そしてとりあえず今夜だけ、緒方が二人を預かると言う事を了承して
もらったのだ。

「オレと一緒に来い。」
緒方に言われるままにヒカルはアキラとともについて行った。
アキラは黙ったままヒカルに抱きかかえられるように歩く。その
手はヒカルのシャツの背を固く握りしめたままだった。
そうして3人でタクシーに乗り、着いた場所は緒方のマンションだった。
「明日午後迎えに来てやる。今夜はアキラ君のそばにについていて
やっていてくれ、進藤。」
緒方は片手で血がついた衣服を着替えながらそう言った。ヒカルが
びっくりしたように緒方を見つめる。
「緒方先生…」
「部屋の中の物は自由に使っていい。シーツも今朝替えてある。」
「…緒方先生…!!」


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ヒカルが涙ぐむと、緒方は二人の前に立ち、左手でヒカルと、そしてアキラの
頬をそっと撫でた。
「まだいろいろ面倒があるかもしれんが…二人なら乗り切れるだろう。」
そう言って緒方は二人だけ残して玄関を出て行った。
戸惑いながらも緒方の好意に感謝してヒカルはアキラを見る。
アキラは無言で緒方が出て行ったドアを見つめていた。確かに、この調子で
アキラの様子はずっと少しおかしかった。レントゲンで骨に異常は
なかったものの、何か透明な膜がかかったように反応が鈍い。気のせいかも
しれなかったが。気のせいだと思いたかった。
「…疲れたよね、塔矢。とにかく、休もう…。」
ヒカルはそう言ってアキラをベッドルームに連れて行った。緒方の部屋の
内部が分かる自分をアキラが不思議そうに見つめているような気がした。
「…実は、尋ねて来た事があるんだよ。2回ほど」
アキラがそれ以上に何かを聞いて来た時は正直に話そうとヒカルは覚悟した。
「…ボクも来た事があるよ…一度だけ…」
アキラは素っ気無くそう答えただけだった。
「そ、そう。」
ヒカルはアキラの制服とズボンを脱がしてベッドに横にさせようとした。
「…全てボクのせいだ…」
「…え?」
アキラの体がカタカタ震え始めた。


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「…緒方さんには計り知れないほどの迷惑をかけてしまった。
緒方さんだけじゃなくて…他の人にも…進藤にも…ボクのせいで…」
見る見るうちにアキラの顔から血の気がさらに失われていくのが分かった。
「お前のせいじゃねえよ!!」
ヒカルは汚れたシャツやジーパンを脱いで自分もベッドに上がり
アキラに毛布をかけてやる。
「…塔矢は何一つ悪くねえよ。」
ヒカルは青ざめて震えるアキラの唇に色を戻そうとしてキスをした。
温めるように唇で包み込むようにして時間をかけて、何度もくり返す。
やがてアキラもそれに応じるように唇を動かし、互いに舌を求め合った。
両腕をヒカルの首に回してアキラはヒカルに強く抱きついて来た。
アキラの体はひんやりしていて体温がひどく低いような気がした。
寒がるようにアキラの体の震えは止まらずかえってひどくなっていく。ここへ
来て初めて自分の身に起きた恐怖に怯えるように全身を激しく震わせ続ける。
「…恐かった…。」
「…塔矢…」
「恐かった…。…あの部屋から二度と出られなくて、もう進藤に会えなく
なるかと思ったら、…恐かった。…すごく恐かったんだ…!!」
アキラにしがみつかれた首元がアキラの涙で濡れて行くのが分かった。
寸でのところで沢淵の楔から逃れる事はできたとは言え、アキラが受けた
痛手は相当なものだ。男達の前であれ程気丈に振る舞って見せていたとは言え
心の底ではどんなに心細く精神の限界で悪夢のような出来事と戦っていた
事だろう。アキラもまだ自分と同じ年令の子供でしかないのだ。


(70)
「ボクを…嫌いにならないで…嫌いにならないで!…進藤…」
激しくしゃくりあげ、声をあげてアキラは泣き続けた。
「何言ってンだよ」
ヒカルはアキラの背中をあやすようにさする。
「塔矢を嫌いになるわけないだろう。…嫌いになれるわけないじゃないか」
ヒカルはアキラの涙で濡れた頬を両手で持ち、自分と目を合わさせる。
額と頬にキスをする。アキラの額に自分の額をくっつける。
「…本当に…?」
少しだけアキラは落ち着きを取り戻し始めた。頭に巻かれた包帯が痛々しい。
「ほら、大人しく寝ないと、傷が開いちゃうよ。オレがついていてやるから」
ヒカルはアキラを寝かし付けるように胸を撫でた。
「…進藤…」
「何?」
「…来て…」
「…!」
ヒカルは一瞬、戸惑うようにアキラを見た。
「…でも…塔矢…」
アキラは真直ぐにヒカルを見つめて来る。その両目から止めどなく涙が溢れて
頬を流れ落ちて行く。ヒカルが指で拭っても拭っても追い付かなかった。
するとアキラの方からヒカルに覆い被さって来て、ヒカルの腫れ上がった
顔半分や痣が出来ている箇所にキスをし始めた。体を震わせながらヒカルの
両手首の包帯の上にもキスをし、切れた唇の端を一心に舐める。ヒカルの傷を
少しでも癒そうとするように。アキラの温かい舌がたまらなく愛しかった。
急激にヒカルの体芯が熱く高まり脈打った。



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