失着点・展界編 67
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「…進藤?」
アキラの表情が不安げに陰る。ヒカルは無理にでも声を張り上げ説明した。
「こ、今度のお前の相手、和谷っていうんだけど、スゲー真剣なんだ。絶対
お前に勝つって言ってさ、オレ、院生の時からずーっとそいつと友達でさ、」
「和谷…」
アキラが名前から顔を思いだそうとしているようだったが、多分覚えては
いないのだろうとヒカルは思った。
「…とにかく、そいつがそれだけ真剣なのにさ、オレ達が…、その、まあ、
わかるだろう?」
ヒカルが顔を赤くしてそう言うとアキラもつられるように赤くなった。
「…そうか…。ごめん、ボクは自分の事ばっかり…」
「塔矢が謝る事ないよ。…とにかく、大手合いが済んだら、二人でゆっくり
話をしよう…。」
アキラの肩に手を置き、なだめるようにそれだけ話す。
「いけない、そろそろ戻らないと…。」
ヒカルは髪をかきあげると、階段に向かって歩き出した。そんなヒカルの
仕草を見ていて、何気にアキラが尋ねた。
「…進藤、何かあった…?」
「え、…どうして?」
ヒカルは心の動揺を隠して聞き返した。
「少し、大人っぽくなったみたいに感じる。」
アキラに真面目な顔でそう言われ、「アハッ」と笑顔をして見せる。
…大手合いさえ終われば。その事だけが今のヒカルの頭の中にあった。
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