初めての体験 67 - 73
(67)
どうやって、家まで帰ったのか憶えていなかった。男が、棋院の近くまで送ってくれた
ことは朧気ながら記憶にあった。
漸く、家についたとき、両親は寝ないで待っていた。無断外泊をひどく叱られたが、
まるで気にならなかった。
それよりも、男にされたことのショックの方が大きくて―――
あの男にまた会うかもしれないと思うと、怖くて家から出られなかった。ヒカルは、
何日も家の中で震えて過ごした。
いくら誘っても来ないヒカルを、アキラは恋しく思っていた。体調が悪くて、
寝込んでいるらしい…。見舞いも断られてしまい、途方にくれた。
――――――進藤に会いたい。
会えないとなると、ますます想いが募る。もちろん、募っているのは恋心
だけではない。
アキラはパソコンを起動させた。お気に入りのサイトを見るためだ。そこには、
ヒカルのそっくりさんのあられもない写真が掲載されている。裏は更に過激だ。
当然、会員用のパスは、とうにゲット済みである。
「あ…新作案内のメールが来てる…」
慌てて、サイトにアクセスした。
「え…?お…お野菜シリーズって……」
思わず、生唾を呑み込んだ。タイトルだけで、突き上げるような欲望が湧いてくる。
速攻で、購入ボタンをクリックした。
<終>
(68)
今日は、森下門下の研究会の日、ヒカルは、次の対局相手を誰にしようかと悩んでいた。
さりげなく周囲に目を走らせた。さながら獲物を物色する鷹のようだ。
しかし、本人は鷹のつもりでも、端からみれば、ヒカルは可愛らしいインコか文鳥くらいにしか見えない。小首を傾げて話しかける様は、まるで愛らしい小鳥が餌をおねだりして甘えているかの様だった。
そんなヒカルを和谷は見つめていた。
和谷は、ヒカルと関係をもって以来、すっかり彼に魅了されてしまった。
しかし、ヒカルは一度関係を持った――ヒカルの言うところの対局――相手には、
興味を持たなかった。むろん、例外は何人かいる。
だが、その相手は、和谷ではなかった。和谷は、ヒカルが様々な高段者に興味を
持っていることを知っていた。ヒカルは強い相手が好きなのだ。
オレは進藤より弱い――――和谷は切なかった。あの時、ヒカルに悪戯さえしなければ、
こんな思いはせずにすんだのに…。
和谷が、ヒカルを悲しげに見ていることに気づいて、冴木が話しかけてきた。
「どうしたんだ?和谷。進藤ばかり見て…」
「冴木さんか…何でもねえよ……」
和谷が覇気なく答えた。そして、ふぅっと大きな溜息をついて、俯いてしまった。
そんな和谷を見て、冴木はそれ以上何も聞けなくなった。
「進藤。」
研究会が終わったとき、ヒカルは冴木に声をかけられた。
「冴木さん…。何?」
冴木は和谷が帰ったのを確認してから、ヒカルに向かって切り出した。
「話があるんだけど…。いいかな?」
ヒカルは、ほくそ笑んだ。『向こうから来たか。』そんな考えをおくびにも出さず、
「いいよ。」
と、零れんばかりの笑顔を返した。
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研究会の参加者たちが帰る中、冴木とヒカルはそのまま、棋院の対局場に残った。
座ったまま、向かい合う。言いにくそうにしながら、冴木が口を開いた。
「進藤、和谷と喧嘩でもした?」
「してないよ。どうして?」
ヒカルには、冴木の言いたいことの見当はついていたが、とぼけて聞き返した。
「和谷…最近元気がないんだ。溜息ついてお前の方ばかりみているし…。
だから、喧嘩でもしたのかなって…」
冴木が心配そうに言った。冴木は、ヒカルや和谷にとって頼りがいのある兄貴分だ。
親切で良く気がつく。ヒカルは冴木を好ましく思っていた。
冴木は、ヒカルを気遣わしげに見つめる。その冴木に向かって、ヒカルが小さく呟いた。
冴木には、その声が聞き取れず、
「え?なんか言った進藤?」
と、ヒカルの口元に顔を寄せた。突然、ヒカルは冴木の首にしがみつき、そのまま、
驚いている冴木にキスをした。
瞬間、冴木の体が硬直した。ヒカルを引き離そうとしたが、指がうまく動かなかった。
ヒカルがゆっくりと唇を離して、先ほどの言葉をもう一度繰り返した。
「知りたい?和谷のこと…」
ヒカルが嫣然と笑った。冴木は、驚いた顔で、ヒカルをまじまじと見つめた。
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ヒカルが、固まったままの冴木にのしかかる。冴木は仰向けに倒された。
「し…進藤?」
冴木は狼狽えたように言う。ヒカルの顔が間近にあった。いつもと違う妖艶とも言える
その微笑みに、冴木の血が熱く滾った。目眩がしそうなくらい色っぽい。
「知りたいんでしょ?和谷がどうしてああなったのか。」
ヒカルは、もう一度、冴木にキスをした。今度はさっきより深く唇をあわせた。
ヒカルは、冴木を和谷にしたのと同じように扱うつもりだったし、現に冴木はヒカルに
いいように嬲られていた。
だが、突然、冴木の腕がヒカルの背に回され、そのまま、ヒカルは抱きしめられた。
冴木は、ヒカルの体を強く抱いたまま、くるりと位置を入れ替えた。
そうして、自分の方から積極的にヒカルの唇をむさぼる。舌を絡ませ、思う様吸い上げる。
漸く、唇が離れてヒカルは大きく息を吸い込んだ。まだ、鼓動が早い。
「知りたい…進藤…オレにも教えて。」
冴木はヒカルの唇のすぐ側で、そう言うと、ヒカルのTシャツの下に手を這わせた。
「え…?ちょっと冴木さん!?」
ヒカルがびっくりして、起きあがろうとしたのを、体重をかけて押しとどめた。
冴木はクスクスと笑いながら、ヒカルの肌の感触を確かめるように撫で続ける。
「さ…えきさん…?アン…!」
「教えてくれるんだろう?」
悪戯っぽく笑って、冴木が再び、ヒカルの唇を塞いだ。その間も手は絶え間なく、
ヒカルの肌を這い続けた。ヒカルのTシャツを首まで捲り上げて、
「進藤…ここにキスしていい?」
冴木が聞いてくる。ヒカルは、大きな瞳をさらに見開いて、冴木を凝視した。
冴木は、ヒカルの返事を待たずに、チュッと音を立てて、胸にキスをした。
端からヒカルの返事は期待してないと言うように…。そのまま、乳首を舐った。
甘噛みし、軽く吸う。
「んんん…あぁ…やだ」
自分が主導権を握りながら、冴木を味わう……つもりだったのに…。
これは…いったい…どういう事?
「ああぁん…やあ…」
ヒカルは、冴木に舌で胸の突起を嬲られ声を甘い悲鳴を上げた。
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冴木がヒカルの乳首に刺激を与えながら、ジーパンのベルトに手をかける。
「あ…ん…やだ…さえきさん…やめてよ」
ヒカルが吐息を噛み殺しながら、冴木に訴えた。
「嫌って何で?教えてくれよ。」
冴木が楽しそうに問うてくる。ヒカルは返事が出来なかった。
おかしい。上位に立つのは自分のはずなのに…。どうして…。
何か言おうとしたが、口からはハアハアという息が漏れただけだった。
冴木はジーパンを脱がしにかかった。下着ごと、足から引き抜いた。
「進藤。ここにもキスしていい?」
冴木が面白そうに聞いた。ヒカルのものは半ば立ち上がりかけていた。
「やだよ…やだ…だめ…」
ヒカルが半泣きで答えた。
「進藤の“嫌”は“いい”ってことだろ?そう教えてくれただろ?」
ヒカルの訴えを無視して、冴木の唇がヒカル自身に触れた。
「!」
ヒカルの体が跳ねた。舌先で先端を軽くなぶられる。キャンディーバーを舐めるように
全体を舐めたり、しゃぶったりした。
「あ…あん…あ…はあ…んん―――」
ヒカルが断続的に声を上げた。声が上がるのを止められなかった。
「ここもいいよな?」
冴木の舌が後ろを這った。尻でずり上がって逃げようとしたが、腰をしっかり掴まれた。
「や…やだ…さえきさん…ああ……」
ヒカルは身悶えた。怖くなって、手で顔を覆った。体が震えていた。
そんなヒカルを見て、冴木は口元でかすかに笑うと、後ろに指を侵入させた。
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冴木が指を動かすたびに、ヒカルの体がビクビクと跳ね上がる。
「やだ…やだよ…やめてよ…さえきさぁん!!」
ヒカルが泣きながら、頼んだ。
「和谷にも、そうやって可愛く泣いて見せた?」
ヒカルは必死で首を振った。冴木の声は笑いを含んでいた。
「違うの?じゃあ、どうやったの?」
ヒカルは首を振り続けた。冴木が淡々と、しかし、面白そうに聞いてくる。その声音とは正反対に、
心は酷く高ぶっているようだった。ヒカルの涙が、冴木の内にある衝動を突き上げていた。
「それじゃあ、わからない。教えてよ。」
ヒカルは、どうすればいいのかわからず、泣きじゃくるだけだった。
冴木はヒカルの知っている冴木ではなかった。
冴木は、泣いているヒカルの腰を持ち上げると、自分の腰の位置に固定した。
「こんな風にされた?」
と、言って、冴木はヒカルをゆっくりと貫いた。
「や───────────っ!」
ヒカルが細い悲鳴を上げた。
冴木の全身を信じられない快感が駆けめぐった。
「あ…あ…いた…やだ…やだぁ…」
ヒカルが苦しげに喘いだ。ヒカルの切れ切れの吐息が、冴木の耳を打つ。
だが、冴木は手加減無しに、ヒカルを突き上げた。
冴木が動くその度に、内蔵が外に引きずり出される――――そんな錯覚をヒカルに起こさせる。
「ひぃ…きゃう…」
涙が散った。でも、それは痛みからだけではなかった。
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冴木の舌がヒカルの瞼を舐めた。そして、そのまま溜まっている涙まで舐め取った。
「やめて…さえきさん…あ…ぁあん…」
「進藤…進藤…いい…いいよ…アァ…」
ヒカルを容赦なく揺さぶりながら、冴木が満足げに笑った。…ような気がした。
「ん…は…はぁん…さ…えき…さぁん…や…」
「あ…ん…アァ―――――――ッ」
体の中に熱いものが吐き出されたのを感じた時、ヒカルの意識は途切れた。
冴木…森下門下期待の星。さすが、和谷の兄弟子。あなどれねえ。
「進藤、冴木さんって森下門下の人?どんな人?」
アキラが聞いてきた。声に何だか険がある。
ははぁ……やきもちだな…
ヒカルは表情に出さずに、心の中でにんまり笑った。
「優しくて面倒見のいいお兄さんだよ。ちょっと、つかみ所がないけどね。」
あんな人とは思わなかったなぁ。意外だった……ちょっと……良かったけど…。
「オレ、一人っ子だしあんな兄ちゃん欲しかったな。」
「そうか…そう言えば、ボクもお兄さん欲しいと思ったことあるなぁ。」
ヒカルの笑顔に安心したのか、アキラは、表情を和らげた。
ヒカルは、静かに微笑むアキラをチラリと見やって、言葉を続けた。
「いるじゃん。ほら、あの人…芦原さん。」
「ああ。そうだね。うん、お兄さんみたいなものかな。」
ヒカルはアキラの顔に自分の顔を近づけ、そっと囁いた。
「ね…芦原さんてどんな人?強い?」
アキラは、間近にあるヒカルの唇の動きにドキドキしながら、答えた。
「芦原さんはあまり勝敗に執着していないみたい。いつも飄々としてて…。
でも、真剣にやったら良い線行くんじゃないかな…」
「ふーん……そうなんだ…芦原さんって……そっか……」
ヒカルはアキラからちょっと体を離して、考え込むように呟いた。
「進藤?」
怪訝な顔をしているアキラに向かって、ヒカルは可愛く微笑んだ。
「ねえ。オレ、もっと塔矢門下の話を聞きたいな…あっちで…」
ヒカルは奥の部屋を指さして言った。
「し…しんどう…」
アキラの声がうわずった。だって、あの部屋は……。心臓の鼓動が早くなった。
アキラはヒカルの肩を抱いて、急いで奥の部屋へと入って行った。
<終>
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