初めての体験 68


(68)
 今日は、森下門下の研究会の日、ヒカルは、次の対局相手を誰にしようかと悩んでいた。
さりげなく周囲に目を走らせた。さながら獲物を物色する鷹のようだ。
 しかし、本人は鷹のつもりでも、端からみれば、ヒカルは可愛らしいインコか文鳥くらいにしか見えない。小首を傾げて話しかける様は、まるで愛らしい小鳥が餌をおねだりして甘えているかの様だった。
 そんなヒカルを和谷は見つめていた。
 和谷は、ヒカルと関係をもって以来、すっかり彼に魅了されてしまった。
しかし、ヒカルは一度関係を持った――ヒカルの言うところの対局――相手には、
興味を持たなかった。むろん、例外は何人かいる。
 だが、その相手は、和谷ではなかった。和谷は、ヒカルが様々な高段者に興味を
持っていることを知っていた。ヒカルは強い相手が好きなのだ。
 オレは進藤より弱い――――和谷は切なかった。あの時、ヒカルに悪戯さえしなければ、
こんな思いはせずにすんだのに…。
 和谷が、ヒカルを悲しげに見ていることに気づいて、冴木が話しかけてきた。
「どうしたんだ?和谷。進藤ばかり見て…」
「冴木さんか…何でもねえよ……」
和谷が覇気なく答えた。そして、ふぅっと大きな溜息をついて、俯いてしまった。
そんな和谷を見て、冴木はそれ以上何も聞けなくなった。

 「進藤。」
研究会が終わったとき、ヒカルは冴木に声をかけられた。
「冴木さん…。何?」
冴木は和谷が帰ったのを確認してから、ヒカルに向かって切り出した。
「話があるんだけど…。いいかな?」
ヒカルは、ほくそ笑んだ。『向こうから来たか。』そんな考えをおくびにも出さず、
「いいよ。」
と、零れんばかりの笑顔を返した。



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