失着点・龍界編 68 - 69


(68)
ヒカルが涙ぐむと、緒方は二人の前に立ち、左手でヒカルと、そしてアキラの
頬をそっと撫でた。
「まだいろいろ面倒があるかもしれんが…二人なら乗り切れるだろう。」
そう言って緒方は二人だけ残して玄関を出て行った。
戸惑いながらも緒方の好意に感謝してヒカルはアキラを見る。
アキラは無言で緒方が出て行ったドアを見つめていた。確かに、この調子で
アキラの様子はずっと少しおかしかった。レントゲンで骨に異常は
なかったものの、何か透明な膜がかかったように反応が鈍い。気のせいかも
しれなかったが。気のせいだと思いたかった。
「…疲れたよね、塔矢。とにかく、休もう…。」
ヒカルはそう言ってアキラをベッドルームに連れて行った。緒方の部屋の
内部が分かる自分をアキラが不思議そうに見つめているような気がした。
「…実は、尋ねて来た事があるんだよ。2回ほど」
アキラがそれ以上に何かを聞いて来た時は正直に話そうとヒカルは覚悟した。
「…ボクも来た事があるよ…一度だけ…」
アキラは素っ気無くそう答えただけだった。
「そ、そう。」
ヒカルはアキラの制服とズボンを脱がしてベッドに横にさせようとした。
「…全てボクのせいだ…」
「…え?」
アキラの体がカタカタ震え始めた。


(69)
「…緒方さんには計り知れないほどの迷惑をかけてしまった。
緒方さんだけじゃなくて…他の人にも…進藤にも…ボクのせいで…」
見る見るうちにアキラの顔から血の気がさらに失われていくのが分かった。
「お前のせいじゃねえよ!!」
ヒカルは汚れたシャツやジーパンを脱いで自分もベッドに上がり
アキラに毛布をかけてやる。
「…塔矢は何一つ悪くねえよ。」
ヒカルは青ざめて震えるアキラの唇に色を戻そうとしてキスをした。
温めるように唇で包み込むようにして時間をかけて、何度もくり返す。
やがてアキラもそれに応じるように唇を動かし、互いに舌を求め合った。
両腕をヒカルの首に回してアキラはヒカルに強く抱きついて来た。
アキラの体はひんやりしていて体温がひどく低いような気がした。
寒がるようにアキラの体の震えは止まらずかえってひどくなっていく。ここへ
来て初めて自分の身に起きた恐怖に怯えるように全身を激しく震わせ続ける。
「…恐かった…。」
「…塔矢…」
「恐かった…。…あの部屋から二度と出られなくて、もう進藤に会えなく
なるかと思ったら、…恐かった。…すごく恐かったんだ…!!」
アキラにしがみつかれた首元がアキラの涙で濡れて行くのが分かった。
寸でのところで沢淵の楔から逃れる事はできたとは言え、アキラが受けた
痛手は相当なものだ。男達の前であれ程気丈に振る舞って見せていたとは言え
心の底ではどんなに心細く精神の限界で悪夢のような出来事と戦っていた
事だろう。アキラもまだ自分と同じ年令の子供でしかないのだ。



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