Linkage 69 - 70


(69)
「……ン……おが…た…さん……」
 突然のアキラの掠れた呼び声に、俯いていた緒方は色を失い、慌てて顔を上げた。
すかさず立ち上がると、アキラの顔を覗き込む。
アキラは一時的には苦悩するように眉根を寄せ、ごく僅かに荒い呼吸をしていたものの、
間もなく穏やかな寝顔に戻った。
 アキラの声が寝言であることに安堵の溜息をついた緒方は、リビングへ向かうと、
アーロンチェアに深く身を沈めた。
リクライニングを一気に倒し、アームレストに両肘を預ける。
そのままの姿勢で回転し、水槽の方を向くと、とりたてて興味もなさそうな様子で、
気ままに泳ぐ熱帯魚に視線を走らせた。
 しばらくして、中でも最も小さい1匹の尾鰭に傷が付いていることに気付き、
その泳ぎをじっと追う。
ふと、謎の少年との一局にショックを受けた胸中を吐露した際の、アキラの脆く
はかなげな表情が思い出され、思わず緒方は胸を押さえた。
(アキラ君の精神的ダメージにオレが追い打ちをかけてどうする。レイプの
ダメージが肉体以上に精神に響くことは、オレが身をもって知ってるじゃないか……)
 風化することなく心の奥底に沈殿した自らの苦い過去の記憶が否応なしに蘇ってくる。
そんな過去への感傷に浸る自身を制するかのように、緒方は軽く頭を振った。
ポケットの中のライターを取り出し、手の中で転がし始める。
「……オレに抱かれてるときも同じ顔をしてたな、アキラ君……。何がそうさせたんだ?
例の少年との一局か?……それとも、オレの…………」
 緒方は冷たい輝きを放つ直方体の金属塊に悄然として目を落とすと、答えを求めて
縋るような思いで語りかけた。


(70)
 憔悴しきった表情のままアーロンチェアに身を沈めていた緒方だったが、
やがて、のろのろと立ち上がると浴室へ向かった。
シャワーのコックを勢いよく捻り、降り注ぐ冷水を頭から浴びる。
通常であれば耐え難い水の冷たさも、今の緒方にはむしろ生温く感じられて
ならなかった。
 冷え切った身体に残る水滴を荒々しく拭き取ると、緒方はバスタオルを
腰に巻き、アキラが眠る寝室のクローゼットの前に立った。
静かに扉を開け、下着とセーターとスラックスを取り出すと、足音を殺して
リビングへ向かう。
服を身につけた緒方は、本棚の脇にあるスツールを持ち、リビングの電気を
消して再び寝室へ戻った。
アキラの眠るベッドのすぐ横にスツールを置くと、窓際へと歩み寄り、
ブラインドのスラットを外部からの光が入るよう回転させる。
寝室全体がなんとか見渡せる程度の明るさになったことを確認すると、緒方は
ゆっくりとスツールに腰掛けた。
 アキラは寝顔を見守る緒方の方に身体を傾け、静かな寝息を立てている。
緒方はそんなアキラの頬に掛かる黒髪を優しく掻き上げてやると、羽布団から
はみ出した手をそっと持ち上げ、ほっそりとした白い指に唇を寄せた。
(……もうオレなんかに見守られたくないか、アキラ君は……。ただ、せめて
朝まではキミの側にいさせてくれよ……)



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