誘惑 第三部 69 - 70


(69)
厳しい対局で予想以上に消耗した二人は、一旦休憩しよう、というヒカルの提案で階下に下りる
ことにした。
にこやかにアキラを迎えたヒカルの母に丁寧に挨拶をするアキラを見て、ヒカルは半分感心し、
しかし半分では、呆れた。たかが友人の母親相手に硬すぎるんじゃないかと。
それから、紅茶を入れてもらい、アキラの買ってきたショートケーキを3人で食べた。
久しぶりに会った息子の友人に色々と話しかけるヒカルの母に、アキラがそつなく応える。
ヒカルの母は、大抵の母親という人種がそうであるように、おしゃべりが好きで、話し出したら止ま
らなかった。しかも通常なら話相手にならないような年代の少年が実に愛想よく応じるものだから、
彼女は嬉しくなってヒカルの事や、アキラの事、碁界についての不安や疑問など、話題はあちら
からこちらへと飛び回り、尽きようともしなかった。
最初は、自分を話題に出されると、「お母さん、そんな事まで言わないでよ。」と、口を挟んでいた
ヒカルは途中から話題についていこうとするのはやめて二個目のケーキに手を出そうとしたが、
目聡く見つけた母に「ホントにお行儀悪いわね、アンタは。少しは塔矢くんを見習いなさい。」など
と小言を言われて頬を膨らませた。
コイツもよく、こんなニコニコしていつまでも相手してるよな、とヒカルは内心悪態をつく。
オレなんて近所のオバサンや親戚のオバサン達にこんな風につかまるとすっごくウゼェって思う
のに。この愛想の良さはなんだよ。ホントに外面だけはいいヤツ。
それにしても、いつまでたっても終わりそうにないのに焦れて、とうとうヒカルが言った。
「なあ、塔矢、検討しないの?」
「ああ、うん、ちょっと待って。」
ちょっとじゃない。もうだいぶ待ったぞ。そう思ってアキラを突っつく。
「だから待てって言ってるだろう。」
「だからもう待ったよ!そんなどうでもいい話いつまでもしてんなよ。検討するんだろ?ホラ、」
そう言ってアキラの腕を取って強引に引っ張ろうとする。その手をアキラがパシッと叩いた。


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「全く、失礼なヤツだな、キミは。ボクは今はキミのお母さんと話をしてるんだ。」
「ホントにごめんなさいね、塔矢くん。躾のなってない子で。」
「あ、いえ、そういうつもりじゃなかったんですけど…。」
「だからさあ、いつまでそんなオバサンのおしゃべりに付き合ってる気だよ。
ってゆーか、お母さんが悪いの。もお、いつまでもつまんない話で塔矢引き止めんなよ。
塔矢はオレのなんだから、早く返してよ。」
「進藤!」
いきなり叱り付けるように呼ばれて、ヒカルはびっくりしてアキラを見た。
「キミは!仮にも自分の親に向かってその口の利き方は何だ。」
「な、口の利き方って、なんだよ、普通じゃん。」
「普通なものか。大体キミはいつも目上の人に対する態度がなってない。
仮にもプロなんだから、いつまでも子供気分でいないで少しは改めたらどうなんだ。」
「なんだって?いきなり話し飛ばせんなよ。大体、それじゃ、おまえみたいに態度使い分けるのは
じゃあ、どうなんだよ?」
「ボクがいつそんな事を?」
「はあ?いつだってしてるだろ。自分だって外面良いとかって言ってたじゃねぇか。」
「それとこれとは別だろう。礼儀をわきまえるのは態度の使い分けなんかじゃない。」
ヒカルの母は目を真ん丸くさせて、いきなり子供のような言い合いを始めた二人を見た。
塔矢くんて、まあ、落ち着いた子だと思ってたけど、そうでもないのね。ふふ、可愛いわ。
「まあまあ、ヒカルも塔矢くんもそんなケンカしないで、」
と彼女は放っておくと止まりそうにない二人の間に割って入った。
「お母さんも悪かったわ、いつまでもオバサンの相手させちゃってごめんなさいね、塔矢くん。」
「あ、いえ、とんでもないです。」
殊勝げに応えるアキラに向かって、彼女はにっこり笑いかけた。
「ウチの子も本当にしょうがない子ですけど、
塔矢くん、ヒカルをよろしくね。」



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