Happy Little Wedding 7
(7)
「でもね、アキラさん。今日はうんと美味しいご飯が出るから、たくさん食べないとダメよ?
お菓子ばっかり食べてたら、大きくなれませんからね」
「ごはんのあとで、いちごのアイスお代わりしてもいい・・・?」
「あんまり食べ過ぎると、ぽんぽんが冷えちゃうわよ?」
「まぁいいじゃないか、食べたがっているんだから。アキラ、お父さんのを半分やろう」
「ほんと〜!」
「もう、あなたったらまたアキラさんにいい顔をして。この間も私の留守中にその調子で
アイスを二つも食べさせて、アキラさんがお腹を壊したばかりじゃありませんか。
アキラさん、アイスのお代わりは一口までよ、いーい?お母さんのを分けてあげますからね」
「え、ひとくちだけ〜・・・」
眉を八の字にして助けを求めるようにアキラが父親を見る。
だが行洋はエヘンと咳払いをし、話題を変えた。
「け、結婚式と言えば、緒方くんはどうなんだ。そろそろちゃんと、いい人はいるのかね」
「は・・・」
芦原はわくわく目を輝かせて緒方のほうを向き、
明子夫人は困った人ねという顔で夫の顔を見ている。
アキラは「ねぇ、ふたくちお代わりしちゃだめ〜?」と小声で母親の袖を引っ張っている。
実を言うと最近、付き合っている女性が居ないでもなかった。
以前から面識はあった相手だ。去年の十一月か十二月に偶然再会して、緒方から食事に誘った。
初めは何だかんだと勿体ぶっていた相手だったが、緒方が若手プロ棋士の中ではかなりの
有望株として名を揚げつつあることを知ると向こうから連絡を取って来た。
そんな女の態度を現金だと思いながら、誘いを断ることが出来なかった。
むしろ縋るように彼女との関係を深めることを望んだ。
顔立ちもプロポーションも好みだが、特に心惹かれる何かがあったわけではなかった。
にも関わらず性急なほどに関係を急いでしまったのは、彼女の温かな懐に飛び込めば
それによって何かから逃れ、庇護してもらえるという薄い期待があったせいかもしれない。
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