クチナハ 〜平安陰陽師賀茂明淫妖物語〜 7
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「そう・・・じゃ、気をつけて帰るといい」
「あ、何だよそれ、そっけねェな。オマエだってそろそろ帰る時間だろ。
オレ待ってるから、一緒に帰ろうぜ!」
「・・・一緒に?なんでボクが」
「そろそろ涼しくなってきたし、オマエちょっとは運動したほうがいいぜ?
いっつも牛車ばっかりじゃ、イザって時にすぐへばっちゃうぞ。
・・・ホラ、この間だってさぁ、」
珍しく目を逸らし口の中でごにょごにょと何か云いながら、光が少し赤くなる。
いつのことを云われているのか明にもすぐ察しがついた。
頬がカァッと熱くなる。
「あ、あぁ。・・・うん、まぁ、・・・」
「・・・だろ?」
「・・・そうかな」
「そーだよ。だからこれからはどんどん食わせて、運動させてオマエに体力
つけさせるから。夏の間にオマエちょっと痩せたし。だから、なっ。
オレ外で待ってるから、今日は歩いて一緒に帰ろうぜ。決まり!」
真っ赤な顔をして返事も聞かずに光が出て行った後を、明は温かな思いで眺めた。
昼間だというのに薄暗く閉ざされた闇のような空間に、
光が灯を灯して行ってくれたような気がする。
大体にして、先刻の夢――?の中で明があるまじき行いに及んだ原因も
あの能天気な、太陽のように明るい友人との関係にあるのだった。
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