無題 第2部 7
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「こんなにひどくなる前に、オレでも緒方さんでも呼べよ。病気の時に独りって、心細いだろ?」
腕の中で、アキラがビクリと身体を震わせた。
不安そうな目で芦原を見上げ、何か言いたげに唇を動かすが、言葉が出て来ないようだ。
熱のせいか瞳が潤んで、頬が微かに紅潮し、渇いた唇がふるえている。
―コイツって、こんなに色っぽかったっけ…?
縋るようなその瞳に、芦原は一瞬ぎょっとなった。
力の入らない腕で、芦原にしがみつき、膝が小さく震えている。
―マ、マズイ…ヘンな気になりそうだ。
「ごめん、寒いだろ?中に入らなくちゃ。」
動揺を誤魔化すように、芦原は慌ててアキラにそう言い、薄い肩を抱いて、母屋に向かった。
「寝てたんだろ?起こしちゃって悪かったな。」
「ううん、起きてたんだけど、出るのが面倒で…ごめんなさい。」
「ちゃんと食べてるのか?」
「…少し。」
「駄目だろ、ちゃんと食べないと…おかゆとかだったら食べられるか?作ってやるから」
熱のためだけではないような、妙に弱った雰囲気のアキラを見ているとおかしな気分になって
きそうだ。そんな自分を誤魔化すように、芦原はアキラを部屋において、台所へ向かった。
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