バレンタイン 7
(7)
「バカなこと言わないでください……!」
高く挙げられたアキラたんの華奢な手が、俺の頬に向かって振り下ろされた。
「付き合いたいのは、ボクが付き合っているのは尚志さん、あなただけです!」
小倉君はまじめな人だ。
だが俺もそれなりにまじめな店員だった。
職場で修羅場を繰り広げることに抵抗がないはずがなかったが、アキラを失う
ことを考えれば何をためらうことがあろうか。
頬を殴られることだって、アキラたんが与える痛みだと思うと甘美な陶酔を連れてくるってなもんだ。
「アキラたん、俺だって同じ思いだよ。この義理チョコになんでアキラたんがそんなに
怒るのか、俺にはわからんのよ。どんな美人に告られたって、俺はなびかない自信があるね」
焼け付く頬の痛みを堪えながらニヤリと笑うと、アキラたんのキリリと吊り上った眉がみるみる
うちに下がっていくのがはっきりと判った。
その細い肩を抱きしめたい衝動に駆られながら、紳士な俺はさわやかさを心がける。
「アキラたんだってそうなんだろ?」
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