指話 7


(7)
自分以上にあの人が受けたショックの方が大きかったと思う。
父を追い、ようやくその一端を捕まえようとしていた間際だったのだから。
あの人は囲碁界では異端児だった。古い流れを断ち切り新しい風を
吹き込もうとしてた。その姿勢が一部の古老達の反感を買い、
若い頃にはいろいろな鞘当てや風当たりがあったという。
そんなあの人を矢面にいつも立ったのが父だった。
あの人との十段戦の最中であったため、父の見舞いに来る人たちの会話から
そういう話を聞く事が出来た。
院生にならず、場末の碁会所で気の荒い連中を相手に力碁を打っていたのを見て、
父がプロになるよう声をかけたのだという。
家は裕福なはずだったが、家庭に事情があり、相当荒れた青春時代を過ごしていたと
言う事で、父の門下に入れることに反対する声もあったようだ。
碁と同じく荒い気性は、父の元で打つ内に形を潜めたという。
何よりそれまで以上に碁に夢中になり、毎日訪れては父と打っていたのだと。
―途中でどうしても重要な話があって、先生に声をかけに入ったところ、
あいつに噛み付かれそうに睨まれたよ。
ボクが思わず泣き出したあの目の事だろう。父の息子であろうが、その人に
とって何より大切な父との時間を邪魔するものを許さない目。
ボクが父の碁を追うように、やはりあの人も父の碁を夢中で追ってきたのだ。
あらためてあの人に惹かれないではいられないと思う。
自分は進藤に感情的になり過ぎている。もう少し冷静になろう。
自分を見つめなおすために。そう思っていた矢先、
父がsaiと打つ場に出くわした。



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