浴衣 7
(7)
「進藤――……」
「うん?」
僕の呼びかけに、進藤は優しい声を聞かせてくれた。
それは本当に短いものだったけれど、そこに滲む響きは強く心に残った。
不思議だなと思いながら、僕は口を開いた。
「好きだ」
言いたくてたまらなかった。
言われたから返すのではなく、聞かれたから答えるのではなく、自分の気持ちを自分の意思で伝えたかった。
「僕は君が好きだ」
僕の言葉に弾かれたように、進藤が大きく一歩後ろに退いた。
わずかな距離が、かえってお互いの表情を、はっきりさせる。
進藤は大きな瞳をこぼれんばかりに瞠いてた。
「塔矢……」
進藤が膝を折る。僕の足元とにしゃがみこみ、下から覗き込んでくる。
あんまり見て欲しくなかったが、ここで目を逸らすのも本意ではなかった。
見上げてくる進藤の瞳に、自分が映っているような気がした。
こんな暗がりでそれを確認できるはずもなく……。
進藤の暖かい手が、僕の膝に置かれた。
「ごめん」
突然、進藤が謝罪を口にする。
僕は……、思いがけない謝罪に、初めて羞恥を覚えた。
なぜ謝るんだ? 僕は、なにか間違えていたのだろうか。
さすがにそれ以上、見つめていられなくて、目を瞑り、俯いた。
「ごめん……、俺……まだちゃんと言ってなかった」
一瞬、指先まで凍ったように感じたのに、いまは全身に火が灯ったようだ。
「塔矢」
胸が苦しい。耳にも心臓があるみたいだ。
「好きだ」
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