Cry for the moon 7
(7)
部外者の俺がこんなことを言ったせいで、雰囲気が重くなった。
謝ろうとしたとき、進藤は首を横に振った。
「違うぜ、三谷。オレ、三段じゃなくて四段。あの後すぐに昇段したんだ。あとさ、
ちっとも目標達成なんかじゃないぜ。だってタイトルは目標じゃなくて手段だからな、
一手を極めるための。でもそんなことを言ってても、やっぱり本因坊のタイトルはさ、
正直とてもうれしいんだ」
屈託なく進藤は笑う。だけどかえって俺は切なくなった。
進藤の見ているものが俺には見えない。
「塔矢が名人位をとったらおもしろいよな。また“塔矢名人”って呼べるようになる。
で、塔矢名人、って呼ばれて塔矢が、父じゃありませんけど、って言うの」
「……進藤の思考って低レベルだね」
「俺もそれに同意する」
「越智! 本田さん!」
進藤が声をあげるとみなは笑い出す。だけどその空気はどこか緊張していた。
ここにいるのはただの仲間じゃない。ライバルなんだ。
けれど進藤が意識しているのは塔矢アキラただ一人なんだろうという気がした。
進藤ヒカルと塔矢アキラ。
この二人は並び称されるようになっている。
囲碁界の双頭の龍、もしくは鷲。双璧、二振りの剣――――
けど俺の頭に思い浮かんだ言葉は、双子の月、だった。
二人とも月のようだからだ。目に見えているのに、届かない存在。
本当に俺とは別のところに住んでいるんだ。
一瞬でも同じ場所にいられた俺は、幸せなのかもしれない。
出会えて良かったと思う。苦しさもあったけど、それ以上のものをもらった。
なのに俺は進藤に「がんばれよ、応援してるぜ」と、言うことさえできなかった。
俺はずっとそれを後悔していた。
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