月下の兎 7
(7)
「オレは陸上やってたんだぜ」
ヒカルを追って男も走り、勢いで跳んだ。男は楽々通路を飛び越えた。
それを見てヒカルは一瞬、もうダメだと思って目を閉じた。
ヒカルの時を上回る凄まじい音が夜空に響いた。
目を開けるとそこに男の姿はなかった。
倉庫の屋根はヒカルに続いて更に重たい男の体重は支え切れなかったのだ。
男が着地したと思われる部分はぽっかりと暗い穴が開いていた。
下で待っていた男達は衝撃音に顔を見合わせ、様子を伺うようにして上に登って来た。
だがそこに仲間の姿もヒカルの姿も見つけられなかった。
雨樋の場所を見つけてようやくヒカルは下におりる事が出来た。
身体のあちこちが焼けるように痛んだ。じわりとそれらの箇所が濡れいるのを感じる。
「…塔矢…」
それでも今塔矢が自分よりも酷い目に遭っているのではないかと思うと気が気ではなかった。
だがさっき屋根を飛び越した際に激しくぶつけたらしく、一本のひび割れが走った
携帯は何の反応もしなくなってしまっていた。
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