平安幻想秘聞録・第四章 7
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「光!良かった。無事だったのね。たくさん、たくさん心配したのよ」
が、その次の瞬間、あかりが感極まったように抱きついて来て、それ
が勘違いだと分かった。あかりは行方不明になった光をずっと案じてい
てくれたらしい。見ると、奈瀬も袂で目頭を押さえている。
「あ、あかり」
ここは男らしく抱き返した方がいいんだろうか。進退窮まってヒカル
は腕を上げたり下げたりしつつ、視線で佐為に助けを求めた。
「お二人とも、こんなところではなんですから」
「う、うん。そうだよな。ほら、あかり、泣くなよ」
目を潤ませたままのあかりと奈瀬を促して、昼餉のために与えられた
部屋へと移動する。おつきの女房は、さすがに盗み聞きははしたないと
思ったのか、ご用がありましたらお呼び下さいと、一礼をして下がって
行った。その足音が遠ざかるの確認して、四人は車座に腰を下ろした。
「えーと、あの」
いったい何から話していいのやら。女性二人に自分が近衛光ではない
と説明するのは骨が折れそうだ。最初、佐為が信じてくれたのは、あの
場に陰陽師である明が同席していたからだし、行洋や緒方もしかりだ。
だが、わざわざ明に来て貰うわけにもいかない。
「あのさ、オレがこれから話すこと、すぐに信じられないかも知れない
けど。訊いてくれる?」
あかりと奈瀬は一瞬顔を見合わせたが、すぐに頷いた。それに勇気づ
けられ、ヒカルはここに至る経緯を話し始めた。
ヒカルの説明はお世辞にも巧みとは言えないが、それだけに誠心誠意
が込められているようで、二人は最後まで口を挟まなかった。
「これで全部だよ。嘘や偽りは一つも言ってない」
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