sai包囲網・中一の夏編 7
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「レベルって何だよ。オレが強くなっちゃ、悪いのかよ!」
「たった二ヶ月で、韓国のプロや多くの国のアマ代表を破るほどに?」
「プロ?アマ代表って?」
「先週、ボクは国際アマチュア囲碁カップの会場にいたんだ」
「アマの、国際、何だって?」
「各国のアマの代表が戦う国際試合だよ。キミと、saiと打った棋士
が集まって、saiは誰かとさわぎになっているところにタイミング良
く、キミが対戦を申し込んで来た」
後は言わなくても分かるだろうと、言葉を切る。
長考に入った進藤はすぐには答えを返さない。考え事をするときの彼
のクセなのか、何かを問いたそうに頭上を見上げ、微かに表情を変える。
それを何度か繰り返したあと、やっと口を開いた。
「オレが…」
高めの声が少し掠れていた。その細い首の真ん中が、喉を潤わせるた
めに動く。
「オレがネット碁をやっちゃ悪いってこと、ないだろ」
「悪くないなら、どうして隠すの?」
「隠してなんか…」
「じゃあ、ボクがsaiの正体は進藤ヒカルだって、言ってもいいんだ」
「み、みんな、信じやしないさ」
「そうでもないよ。会場でもね、saiが夏休みになって現れたことや、
チャットでの会話から、子供じゃないかってウワサされていたしね」
「チャットって?」
「『ツヨイダロ、オレ』、覚えがあるだろう?」
これが決定打だったらしく、進藤はかくんと肩を落とした。
「塔矢、どうしたら…saiのこと、黙っててくれるんだ?」
ここで、やっと投了だね、進藤。
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