sai包囲網 7


(7)
 初めて敷居を跨いだ塔矢アキラの家は、予想通りの壮麗な日本家屋で、
そして予想以上に広かった。こんなところにたった三人で住んでるなん
て詐欺じゃないかと、ヒカルでなくても思ってしまうだろう。
 ここへ来るまでの間、アキラは取り立ててヒカルに探りを入れるよう
なこともせず、思い出したようにたわいもない話を振って来た。それは
ほとんどが囲碁のことばかりだったが、アキラに連れられて電車に乗る
という、二度目の対局と同じシチュエーションに背中に嫌な汗をかき始
めていたヒカルはややほっとし、あーあの手はおもしろいよなーと唯一
と言ってもいい共通の話題に応じた。
 そして、佐為はといえば、ここに着くまではじっと押し黙っていたが、
あの塔矢名人の住む家に興味を引かれたのか、何かを探すように視線を
彷徨わせている。
『佐為、少しはじっとしてろよな。きょろきょろされたら気になるだろ』
『すみません、ヒカル。何だか落ち着かなくて』
『オレだって落ち着かねぇよ。こんなでかい家でさぁ』
 囲碁を始めるまではまともに正座をしたことがなかったのだ。アキラ
がお茶を入れて戻って来るまでの間、一人ぽつんと広い和室に残され、
あまりに場違いな自分に座った尻がむずむずして来る。アキラの追求を
かわす作戦を練るよりも、こっそり帰ってしまおうかとすっかり弱気に
なって来たところに、やっとアキラが戻って来た。
「待たせてすまない。和菓子は嫌いじゃないよね」
「あっ、オレ。基本的に好き嫌いはないからさ」
「あぁ、そんな感じだね」
 くすっと笑ったアキラに少しだけヒカルの気分も浮上した。



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