恋 Part 4 7


(7)
     * * * * *

「進籐、苦しいんじゃないか?」
僕は、小声で尋ねる。
「おまえ、デカいからな。それより、違うだろ?」
「え?」
「進籐じゃないだろ?」
咎めるような瞳が、僕を見下ろしている。
「あ、ごめん。ヒカル……」
僕が言い直すと、ヒカルはようやく瞳を和ませ、口角を引き上げるようにして、笑ってくれた。
そう、ようやく笑ってくれたんだ。
「おまえ、すぐ苗字のほう口にするよな」
「そうかな?」
「そうだよ。棋院とか対局のときは仕方ないにしても、二人っきりでもすぐ進籐に戻る」
拗ねた口振りは愛しかったが、会話の内容はいまの状況に相応しいものとは思えなかった。
体を繋げたまま、僕たちは動くこともせずに、他愛もない言葉のキャッチボールをしてるんだ。
もっと、甘い言葉があってもいいと思わないか?
僕たちは恋人同士なんだ。それなのに、……!
本当に不思議だ。
気持はね。落胆とまでは言わないけれど、何かもやもやとわだかまっているのに、体は熱いままだ。
「ヒカル?」
僕は精一杯甘い声を出す。
「動いていいかな?」
すると、ヒカルはそっとため息をついてから、口を開くんだ。
「いいよ」
それは肯定の言葉だけど、耳に届く響きには聞き逃すことのできない否定が感じられて、僕は自分がますます浅ましく思えてくるんだ。
僕は遠慮しいしい、動き出す。
ヒカルの腰を掴み、下からゆっくりと突き上げる。
「ウッ」と、ヒカルが喉の奥で微かにうめき、新たな痛みに顔をしかめる。
それを見守りながら、僕の心に罪悪感が湧いてくる。
大切な恋人に、酷い事をしているように思えて、胸が痛む。
でも、堪え性のない僕に、これ以上の忍耐は拷問にも等しい。
僕は、本能の命ずるまま快感だけを追う。
でも、それが虚しく思えるのも事実だった。



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