身代わり 7


(7)
「今日は、アキラが来ている」
今まで口をつぐんでいた行洋が、ぽつりと言葉を口にした。
たったその一言に、心臓は跳ね上がった。なんと重厚な声なのだろうか。
「キミの力を見せてもらおう」
ヒカルは武者震いした。あの塔矢行洋と、打つのだ。一年前、アキラが座間王座と対局した、
あの部屋で。ヒカルはつばを飲み込み、足を踏み入れた。
だがその横を佐為がすり抜けた。そしてヒカルの座るべき席に、ためらいもなく座った。
(佐為!)
ヒカルの声を佐為は無視した。行洋と打つのは自分だ。
これは現世によみがえってからの悲願でもある。
目の前にその行洋がいるのだ。見ているだけなど、できない。
佐為の必死な面持ちを見て、ヒカルはひるんだ。しかし自分だって楽しみにしていたのだ。
なによりも、この対局はアキラが見る。
(佐為! どけ!)
だが佐為は微動だにしない。ヒカルになど見向きもせず、一心に行洋を凝視している。
入り口に突っ立ち、席をにらみつけているヒカルを、もちろん皆はいぶかしんだ。
「進藤くん?」
呼びかけられてもヒカルは応えない。そこに佐為がいるからだ。
他の誰にも見えない佐為を、見ているからだ。
「キミ、座りなさい」
それでもヒカルは座らない。
佐為の心が揺らいだ。ヒカルは座ろうと思えば、佐為がいても座れるのだ。だがそれをしな
いのは、自分のことを想ってくれているからだ。
佐為の揺らぎを決定づけたのは、他ならぬ行洋だった。
「進藤くん」
座らぬヒカルを、うながす声色だった。
行洋が対局者だと思っているのは、自分ではなくヒカルなのだ。
あきらめとともに、佐為は目を閉じた。



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