うたかた 7


(7)

 ヒカルの呼吸が規則正しく聞こえてくる。どうやら峠は越したようだった。ヒカルの額と自分の額をくっつけると、まだいくらか熱い。体温計がないので正確な数値はわからなかったが、平熱でないことは断定できた。
 目の前にヒカルの顔がある。甘くて香ばしい匂いがした。
 衝動的な思いに駆られてヒカルの頬に唇を押し当てると、くすぐったそうにゆるく首を振る。その姿も加賀の瞳には扇情的に映った。
(ヤベェな……。)
 顔を離して自分のこめかみを数回軽く殴る。
(なにしてんだよ…。いったい何のために今まで我慢してきたと思ってんだ……。)

 出会ってから、ヒカルを可愛いと思うことは何度もあった。

 しかしそれは、弟と遊んでやっているときのような、小動物を愛でているときのような気持ちからだと加賀は思っていた────思うようにしていた。
(……進藤は出来の悪いオレの『後輩』だ。…それ以上の何かなんて、あるわけねえだろ。)
 何度となく呟いた言葉。それは白々しい響きを持って心の底に溜まっていった。
 無理にせき止めた感情の流れは行き場を無くし、出口を求める。

 ────いつ溢れ出るのだろう。

 限界が近付いてきているのはハッキリしていた。

 ────いつまで気持ちをごまかし続けることができる?

 火のようなヒカルの手とは対照的に、加賀は自分の手のひらが体温を失っていくのがわかった。



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