カルピス・パーティー 7 - 8


(7)
突然閃いたアイデアを口にしかけて、ヒカルは黙り込んでしまった。
いいアイデアだと思う。
が、これを断られたらかなりショックかもしれない。
「何?進藤」
アキラが顔を上げた。コップを手にしたまま、その眉間に憂わしげな皴が寄っている。
それを見て、ヒカルは覚悟を決め提案した。
「・・・あのさー、オレとオマエで一緒のコップ使うか?それなら半分の数で済むだろ」
アキラは一瞬驚いた顔をしたが、やがて両手でコップをきゅっと握りしめニッコリと頷いた。

「あ、これ美味しいよ、進藤。ピーチ味」
「そうか?こっちも飲めよ。オレンジ。オレはこれが一番好きかな」
何度もコップを往復させながら、6種類のカルピスを堪能した。
ミネラルウォーターで割ったカルピスは滑らかに喉の奥へと滑り落ちて行くが、
飲み続けて行くうち次第に舌と喉に粘りつくようないがらっぽさが溜まる。
舌で口蓋を撫でながら軽く咳払いしているとアキラもまた口の中が気になる様子で、
喉を軽く押さえながら音を出さずに薄い喉仏のあたりを小さく動かしていた。
・・・アキラの口の中も今、自分と同じに粘りつくような感覚に襲われているのだろうか。
カルピスの氷に冷やされて普段より赤く見える艶やかな唇の、その向こうに隠されて
見えないアキラの舌や口腔全体が今どんな動きをしているのか。
それを想像しただけでゾクッと興奮が走る。
なんだか今すぐ、その氷で冷えた赤い冷たい唇に自分の唇を押し当てたい。
甘酸っぱく粘りつく互いの唾液で喉を潤しあいたい。

「なあ、塔矢ぁ――」
「え?あっ。すっすまない、進藤」
名前を呼ばれた拍子に下ろしたアキラの手が壜の一本に当たり、テーブルの上と、
倒れないよう慌てて支えたアキラの手に、白い原液が飛び散った。


(8)
「すまない、進藤。お布巾か何か・・・」
言いかけたアキラの肘を、ヒカルがすかさず捉えた。
「・・・進藤?・・・あ、ダメだよ。垂れる・・・っ」
ほっそりと形の良いアキラの手からトロリとした乳白色の液体が手首へ、そして腕へと
透きとおるような皮膚を伝ってゆっくり落ちていく。
それを見たヒカルの全身にゾクゾクッと震えが走り、次の瞬間ヒカルはその震えに
追い立てられるように白いカルピスにまみれたアキラの掌に吸いついていた。

アキラが小さく息を呑んだ。
捉えられた手首を捻って逃れようとし、やめろとか向こうで洗ってくるからとか、
何かごちゃごちゃ言っている。言うことを聞かない手はまるでぴちぴちと跳ねて
人間から逃げる魚のようだ。
それをしっかりと押さえつけながら、ヒカルは甘酸っぱい液体にまみれたアキラの手を
自らの舌と唇で丹念に愛撫した。
指を一本一本口に含んで吸い、掌の窪みに溜まった白い液を立てた舌先で散らかし、
薄い手首の内側を腱に沿ってぴちゃぴちゃ優しく舐めてやる。
そうしてアキラの手がカルピスの代わりにヒカルの唾液にたっぷりとまみれる頃には、
形良い手は痺れたように力を失い、アキラの抗議の声もぱったりと途絶えていた。

ヒカルはちらりとアキラの顔を見た。
アキラは切なげに目を閉じ頬をうっすら上気させて、震える呼吸をなんとか宥めようと
するように口を小さくぱくぱくさせている。
頬と同じ色に上気した皮膚の薄い喉がトクトクと忙しなく脈打っているのは、服に隠れて
見えないその胸がもう早鐘を打っている証拠だ。
そんなアキラを眺めながら舌先で掌の窪みをもう一度ぐりっと抉るように舐めてやると、
艶やかな赤い唇があ、という形に開いて、声無き喘ぎが恍惚と洩れた。



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