少年王の愉しみ 7 - 8
(7)
頬を紅潮させ、ハァハァと荒い息をつきながら、責めるような表情で少年王は彼の恋人を見た。
見せたくないとか言いながら、こんなで皆の前に出てけって言うのか?レッドは…!
「塔矢さーん、そろそろいいですかぁー?」
時間だ。仕方がない。ムッとした表情で少年王を見るレッドの頬に、王は軽くくちづけして、言った。
「大丈夫、次こそは一発でキメて見せるから…」
演出家に呼ばれて、少年王は再度、取り直しのシーンについての打ち合わせをした。
レッドが苛ついたような目でこちらを見ているのを感じる。
仕方がないだろう、台本がこうなってる以上はさ。少年王は心の中で少しだけ文句を言った。
なにさ、キミだって今まで、公衆の面前で着替えたり、水に濡れたり、ハラ出してみたり、そんな
姿を晒してきたくせに。
「…それでね、塔矢くん、…塔矢くん、聞いてる?」
「あ、は、はい、済みません。」
「ここの『あ…』の所ね、ここでちょっと寝返り打って、それからうっすら目を開けるカンジ。
それだと不自然さがなくなるかなあ、と…」
そこまでしながら、こうも細かくシナリオの一言一句に従う必要なんてあるんだろうか。
少年王は先程レッドが言った"必然性がないよ!"という言葉を思い出して、少し苦々しい気分に
なった。けれど、言葉では素直に、「わかりました、やって見ます。」と答えた。
常に礼儀正しく、丁寧に振舞うのが少年王としての当然の嗜みなのである。
「じゃ、行こうか!」
演出家の声が現場に響いた。
照明が落とされる。
カシーン、と、スタジオ内に撮影開始を告げる音が響いた。
(8)
「……ん」
静まり返ったスタジオに少年王―いや、塔矢アキラの、微かな声が響く。
「あ…」
寝返りを打ち、小さく目を開ける。
枕の上に黒髪が乱れる。
―今 何時だろう…
その艶っぽい声と表情に、その場にいる誰もが、息を飲みながら魅せられたように見つめていた。
―目…… 覚めちゃったな
小さく呟きながら、彼はしどけなく起き上がる。
―夜中に目が覚めることなんてあまりないのに…
半身を起こした塔矢アキラは、髪を梳きながら、軽く息をついた。
その仕草に、ほうっ、と溜息をつく者がいた。
―お水を一杯飲んで来ようか
立ち上がろうとする場面を、カメラはなぜか下半身を切り取る。カメラマンの息がハァハァと荒くなっている
が、それは先ほどからずっとなので今更気にするものは誰もいない。と言うより、その場にいる誰もが
似たり寄ったりの状態であった。
纏わりつくような視線など露ほども感じずに塔矢アキラは静かに立ち上がり、襖に手をかける。
そしてすっと襖を開け、部屋を出て行こうと足を踏み出し――そこで、少年王はぴたりと動きを止めた。
そして、くるりと振り向くと、演出家に向かって嫣然と微笑みかけた。
「今のでよろしかったですか。」
「う、うん、よかったよ。OK、OK…」
少年王の悠然たる笑みに飲まれた演出家はついに「OK」を口にしてしまった。
まあいいか、少年王のお宝映像はもう充分に撮れたしね…それにまだまだパジャマシーンは続くん
だし、うん、それじゃ次は廊下を歩く裸足の足元を捉えて…
「えーと、じゃあ、次は廊下から歩いていって、行洋先生の部屋を覗くシーンまでね…」
実は足フェチの演出家は次のシーンの映像を頭の中で練りながらそんな事を言った。
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