白河夜船 7 - 8


(7)

飲み物を両手に持ちながら、ヒカルは再びベッドの中へ潜り込んだ。
「ホラ烏龍茶」
「ありがとう」
ヒカルから飲み物を受け取ると、アキラは喉をならしながら烏龍茶を一気に
流し込んだ。
「うわあ〜、スゲエ飲みっぷり!」
「ものすごく喉渇いていたしね」
そんなたわいのない話を交わしながら過ごすのが、アキラにとって一番の
心休まる空間で、それはヒカルにも同じ事が言えた。
二人が寝具に横たわりながら話すことは、碁や家族、そして自分達の将来の事が多かった。
だが正直、将来の展望は若干15才の二人には未知の事であり、毎日を懸命に
手探りで碁を打ち続けるしか道は開かないのは分かりきっている事実だった。
碁のプロ棋士の多くはこう語る。
『所詮、生涯の内で最高の敵は他ならぬ自分自身だ。
絶望と光明との果てしない繰り返しに決して負けずに前向きに碁を
打てるかだ』と。

「昔読んだ本でこんなことが書いてあったんだ。
人が生まれる時、一つの魂が二つに別れて生を設ける。
元は一つであった二人の人間は、一つになるべく地上で旅を続けるんだ。
完全な魂になるために。
自分の半身を探すとも書いてあったかな。
だから人が不完全なのは当たり前だ・・・そんな内容だったと思ったんだけど。
―――進藤?」
ヒカルは寝息をたて、すでに深い夢の中へ沈んでいた。
「ふーん、そうなんだ・・・・・・ムニャムニャ」


(8)

寝ながらでもアキラの話を夢うつつ聞いていたのか、ヒカルはそれだけ言うと
大きな欠伸を一つし、本格的な眠りに入っていった。
そんなヒカルの様子に思わずアキラは微笑んだ。
「おやすみ進藤」

ボクらはこれからも長い旅を続けるだろう。
途中で風が吹くかもしれない。
太陽が雲に遮られて、暗闇の中へもがくかもしれない。
雨が降り続き、川が氾濫して路を塞ぐかもしれない。
路の上に雪が積もって、行き先を見失ってしまうかもしれない。
これからもいろんなことが嵐のようにボク達に訪れるだろう。
それでも、ボクの魂の行きつく先にはキミがいて欲しい。

やがてアキラにも強い眠気が沸き、アキラはヒカルのそばへ体を寄せた。
心地よい暖かさに思わず笑みがこぼれ、明日の事を頭の片隅に置きながら
夜の静けさに身を預けた。


                      (終)



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