邂逅(平安異聞録) 7 - 8


(7)
佐為が光の屋敷を訪れた頃にはもう日も沈んでいた。空模様が悪くなったのか、大気は湿った香りがした。
光は言葉通り飛びあがって佐為を出迎え、はしゃぎながら自室の縁側へ案内した。
「突然来るから、何も用意してないんだけど…いいか?」
「構いませんよ、こちらこそ、こんな時間に申し訳有りませんでしたね」
「ン、そんなのは全然いーよ!でも、ビックリした…嬉しかったけどさ」
「急に光に会いたくなって…顔が見たくなったんです」
「そっか…」
光は照れたように頬をかいたが、顔は嬉しそうな笑みでいっぱいだった。佐為の気持ちが嬉しい。
「あ、もしかして…宮中でいじめられたとか?」
「ふふ、実はそうなんです…光には嘘がつけませんね」
「やっぱなーそうだと思った!佐為はやっぱり、宮中とか内裏とか似合わないモンな」
笑いながら、光は胸に佐為の頭を抱えるようにして、烏帽子をぽんぽんと撫でた。
「しょうがないから、慰めてやるよ。佐為はホント、オレがいないと駄目なんだから!」
「光…」
佐為は何か言おうとして口を開きかけたが、光の柔らかな体温を感じて、言葉を飲み込んだ。
言葉は必要ないように思えた。お互いのぬくもりを感じながら、このまま時が止まれば良いと願った。


(8)
「あ、雨…」
光が気付いて口を開いた。やがて雨は本格的に降り始め、遠くで雷鳴も聞こえ始める。
二人で縁側から光の部屋に入ってあかりを灯すと、土砂降りの景色を何とはなしに眺めやる。
心地よい沈黙を最初に破ったのは佐為だった。
「…光は、雷は怖くないのですか?」
「オレ?そんなの怖くて検非違使なんてつとまらねーよ!何だよ、佐為は怖いのか?」
茶化すように言う光に、佐為は神妙な顔つきで答える。
「私は、怖いですよ。神様のお怒りみたいで」
「かみさま…?」
「道真公のお怒りだと言う人もいますけど…私はそうは思いません。道真公がご存命のころから
 …それ以前から雷はこの地上にあったのですから」
「そりゃーそうだろうけど」
「私は、神様に怒られるのがいっとう怖いんです…だから、雷は恐ろしい」
言いながら、佐為は光の手を取ってぎゅう、と握ってきた。その強い力に、光は微かに震えた。
「だ、大丈夫だよ。佐為は優しいから、神様が佐為を怒るわけないだろ?」
「そんなことは、ありませんよ。光」
「そんなことあるさ。佐為は優しくて、馬鹿みたいに囲碁好きで、ずっとそればっかりで…」
「…」
「…純粋な強いヤツだから。神様に怒られることなんて、あるもんか」
佐為は無言で、掴んでいた光の手をひいて、胸の中にその体を抱き寄せた。光の僅かに高い体温が心地よい。
「私は光が思っているほど、強くも純粋でもないのですよ?」



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