金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 7 - 8


(7)
 和谷の所での若手棋士の研究会。そこにヒカルは毎週顔を出している。院生時代の仲間の
伊角や本田、越智、それから足立、小宮、奈瀬達院生、森下研究会の冴木、一般からプロになった
変わり種の門脇など、メンバーは多彩だ。今日は、そのうち六人が顔を出していた。
 研究会では、真剣にかつ賑やかにお互い活発な意見を交換していく。それが少々ヒートアップして、
ケンカになることもしばしばだが、それもご愛敬だ。
 ケンカになる面子は大概決まっていて、ヒカル、和谷、越智などで、他のメンバーはそれを
仲裁するのに大わらわだ。
 だけど、大人組は彼らが可愛くて仕方がないらしい。研究会の後はいつもお楽しみがあるのだが、
それはヒカルや和谷達にとっても大きな楽しみだった。
「ねー門脇さん。それ、ちょこっとだけ飲ませて?」
小首を傾げて、ヒカルに可愛くおねだりされると、嫌とは言えない。それでも一応、形だけは拒んでみせる。
「ダメダメ!未成年はダメ!…それに、酒に弱いんだろ?」
「でも、ちょっとだけ…ちょっとだけだから…大丈夫だよ。ね?」
両手を前ですりあわせて、ウインクされたらもうダメだ。
「しょうがないな…ちょっとだけだぞ。」
苦笑しながらヒカルに缶ビールを差し出すと、ヒカルは「ヤッター!」と、喜んで受け取った。


(8)
 それを口元に持っていき、ヒカルは意味ありげに門脇たちに微笑んだ。そして、止める暇もなく
一気にそれをあおった。
「あ!コラ!」
と、彼らが慌てて缶を取り上げたときには、中身はほとんど、ヒカルの胃袋に収まってしまっていた。
「エヘへ〜飲んじゃった〜」
そう言って笑うヒカルの口調は既に怪しい。
「あ〜あ…バッカでェ進藤…!」
ヒカルを指さして、和谷もケタケタ笑う。和谷の座っている側には、既に空き缶が四、五本
転がっている。
「和谷…」
伊角がウンザリしたように溜息を吐く。そして突然何かを思い出したように、身体をパッと
跳ね上げた。
「越智…越智は?」
 幸い越智は飲んではいなかった。…………いや、そう見えただけだった。越智は缶ビールを
握り締めて、なにやらブツブツと呟いている。
「越智?気分が悪いのか?」
恐る恐る近づいて、顔を寄せる。望んだわけではなかったが、彼の呟きが耳に入った。
「……………聞くんじゃなかった…」
と、伊角は頭痛を堪えるように、額に手を当てた。



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