交際 7 - 8
(7)
アキラは社を居間へ案内した。社は、何かを考え込んでいるようだった。彼に聞きたいことは
いろいろあるが、今は止めておこう。
「あれ?進藤?」
ヒカルは居間にはいなかった。ヒカルがここに来たのは一度だけ。知っている部屋は多くない。
トイレや風呂場を除けば、居間と自分の部屋だけだ。
「社君、ここで待っててくれないか…」
アキラは、社を置いて居間を出た。
「進藤?いるのか?」
暗い部屋の中に呼びかけた。中の空気が震え、人がいることを伝える。灯りをつけると、
やはり、自分の予想通りヒカルがそこにいた。
ヒカルは怒っているような、それでいて泣きそうな顔をしている。アキラは急に、自分が
酷く悪いことをしたような気持ちになった。
アキラだって、怒りたくて怒ったわけじゃないのだ。あまりにもヒカルが遅いので、
事故にでもあってやしないかととても心配したのだ。携帯電話を持っていないヒカルに
連絡を入れることも出来ず、ヤキモキしながら待っていた。
ヒカルは子供扱いするなと言うが、子供扱いしているわけじゃない。離れていると
心配で仕方がないのだ。
「ごめん…怒ったりして…」
アキラが謝ると、ヒカルはアキラに抱きついてきた。柔らかい髪が頬を掠め、甘い体臭が
鼻腔をくすぐった。顔を埋めた肩口から、ヒカルの柔らかい息遣いが伝わる。それだけで、
全身が熱くなった。下半身に血が集中するのを感じた。
(8)
ヒカルがアキラの肩に押しつけていた顔を上げた。大きな瞳に自分が写っている。
それを見ただけで、胸が締め付けられる。息苦しい。
アキラを仰いだまま、ヒカルはその目を閉じた。微かに開かれた唇が自分を待っている。
「進藤…」
アキラは自分の唇を重ねようとして、寸前で止まってしまった。今、キスをしたら、
それだけではすまないような気がした。
ヒカルの身体を静かに離す。たった、それだけなのに酷く精神を消耗した。
「な…んで――――――!」
ヒカルが詰るようにアキラを睨んだ。目にうっすらと涙が浮かんでいる。ヒカルは
アキラを突き飛ばして、そのまま出ていってしまった。
自分の態度は、ヒカルに誤解を与えたのかもしれない…。
ヒカルを追おうとした。その時、
「あ〜あ…可哀想に…キスぐらいしたったらええやんか。」
と、後ろで声がした。振り返ると、襖の向こうに社が立っていた。
「よっぽど、ショックやってんな…オレに気付かんと行ってもた…」
口調は軽いが、表情は重い。本気でヒカルに同情しているのだろうか?
「…キミには関係ないだろう。」
自分とヒカルの間に関わって欲しくない。いや、ヒカルに関わるな。だいたい、どうして
ここにいるんだ!
「…そやけど、半分はオレのせいやもん…」
聞き捨てならない言葉だった。
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