初めての体験 Asid 7 - 8
(7)
ボクは、振り返って和谷の側に膝をついた。泣いている彼に向かって、微笑みかける。
「冗談だよ。いくら何でもこのまま放っておくわけないじゃないか…。」
彼にそう言った物の冗談半分、本気半分だ。彼が懇願しなければ、ボクはあのままここから
立ち去っていた。身体の自由が利かない、裸の彼をそのまま置き去りにして―――――ね。
和谷は、非難と恐怖と、そして快感の入り交じった潤んだ瞳でボクを睨んだ。その紅く
染まった目元が色っぽくて堪らない。何とも思っていない和谷に対してさえ、こんな感情を
抱くのなら、進藤が相手ならボクはどうなってしまうのだろう。
血と精液に汚れた和谷の下半身を、ハンカチで丁寧に拭ってやった。下着とズボンを
きちんと履かせ、まくり上がったTシャツも整えた。和谷は逆らわず、その間ボクに
身を任せていた。
苦痛に呻く和谷を座らせ、後ろにまわった。手錠を外すためだ。彼の手は、傷だらけに
なっていた。暴れたせいだろう。そうか…直接、かけるとこういう可能性もあるわけだ。
ボクの知識はまた一つ増えた。
とりあえず、和谷のお陰で、ボクの気分はすっきりした。和谷は、まだ泣いていたけど…。
「楽しかったよ。機会があれば、また遊ばないか?」
これは、冗談だ。ボクは、和谷の気持ちを和らげようとにっこり笑った。
和谷は真っ青な顔で、怯えて、尻で後ずさった。笑ったつもりなのに…失敗したか?
まあ、いい。どのみち、彼とこれ以上関わる気はない。別の玩具も試してみたかったけどね。
相手は、誰でもいいんだし。他にもチャンスはあるだろう。
(8)
「じゃあ、さよなら。和谷君。」
ボクは、今度こそ本当に彼に背中を向けた。背中に視線を感じたが、振り返る必要は
ないだろう。
汚れたハンカチを丸めて、ゴミ箱に捨てた。その時、後ろから声をかけられた。
この声は…!
「進藤!」
胸が弾む。喜びを隠しきれない。ああ〜ドキドキする。え…あれ?何か怒ってる?
「もう!一緒に帰ろうって言っただろ!なんで待っててくれないんだよ?」
進藤、拗ねた顔も可愛いね。そのまま、棋院のトイレに連れ込んで、いけないことを
したくなるよ。この手錠を使ってね…。でも……良かった…。使わずにすみそうだ。
あー、すっきりさせといて正解だった。
ありがとう、和谷。キミのお陰で、ボクがこの手の道具を使うためには、いろいろと
勉強する必要があることがわかったよ。進藤も傷つけずにすんだ。
その道の達人は、苦痛も快感も指先の力加減一つで思いのままに操るという。幸い、
ボクは、勉強は嫌いじゃない。目的のためには、努力も惜しまない。色々と実践すれば、
上達も早いだろう。
進藤に笑いかけた。進藤は、ポッと頬を染めて、ボクを見つめ返した。
「ごめん。時間が余ったから、ちょっと屋上で休んでいたんだ。」
「なあんだ。いつもの場所にいないから…オレ、てっきり、おいて行かれたかと…」
照れ笑いをする進藤も実にラブリーだ。要するに、進藤は何をしても可愛いということだ。
「なあ、塔矢…今日、オマエの家に泊まってもいい?」
進藤が、はにかみながらボクを見上げる。なんて、可愛いんだ!!!
今夜は、きっとイイ気分で眠れるはずだ。ボクの頭の中で、今日の和谷の姿は、既に進藤に
置き換えられている。……そして、いつかは本物の進藤と………。
待っていてくれ、進藤。きっと、すべての技を修得して、キミを快感で咽び泣かせてみせる!
新たな目標を前に、ボクは体中の血が滾るのを感じた。
――――――とりあえずは、どこかで鞭を手に入れるか……。隠し場所も確保しないとな。
そんなことを考えていると進藤が、大きな目でボクの顔を覗き込んできた。ボクの返事を
待っている。
「もちろんだよ。」
ボクは、優しく笑って言った。
おわり
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