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(7)
僕は目を閉じなかった。進藤も僕を睨んでいる。
僕たちは、睨み合ったまま、お互いの唇を貪り合った。
僕は進藤の両腕に、しがみつくように指を食いこませていた。
進藤は逃がさないと言いたげに、僕の腰に手を置き、強い力で自分のほうへと引き寄せる。
密着する下半身に、熱く昂ぶるものを感じた。おそらく、進藤も同じ昂ぶりを感じていることだろう。
しばらくして唇が離れたとき、僕も進藤も荒い息をついていた。
いま僕たちは、誰よりも近いところにいる。
今日の対局で、燃え尽きることのなかった雄の本能が、進藤の宣戦布告に煽られて、違うものへと姿を変えてしまった。
鼓動が早い。
軽く触れ合った胸から、お互いの早い鼓動が感じられる。
うるさいほどに………。
視線が外せなかった。
僕たちは、しばらく動かずにじっとお互い睨み合う。
先に口を開いたのは進藤だった。

「飲まないか?」

僕も進藤も、本当に欲しいものがなんなのか、わかっていた。
でも、それを言葉にすることはできなかった。

「それなら……、僕の部屋で飲もう。ラウンジもバーも関係者で一杯だから……」

進藤は軽く頷いた。
僕たちは、蛍に見送られて、夜の庭園を後にした。


(8)
僕が、ドアを開け進藤を招き入れた。
進藤が、後ろ手で鍵をかけた。

カチャリという金属音を、僕も進藤も暗闇の中で聞いた。
窓から差し込む水銀灯の光が、室内を照らしていた。
この、不思議な渇望を潤すことができるのは、酒ではないことを僕は知っていた。
砂漠を流離う哀れな旅人のような、渇き。
きっと、同じ渇きに進藤も苦しんでいるはずだ。
僕たちの砂漠は、僕たちの内にあって、それはお互いでなければ潤すことができない。


進藤が後ろから抱きしめてきた。
汗の匂いに眩暈を覚えた。
進藤が、僕の髪を鼻先で掻き分け、無防備な首筋に唇を押し当てる。
「あ……」
すぐに与えられた熱く濡れた感触に、僕は思わず声を漏らしていた。
空調から噴出す冷たい風が、首筋から熱を奪う。肌に残る冷たい感触に、身の内の熱だけはさらに煽られる。
進藤が僕を抱く腕に力をこめる。
僕がここに誘ったのに、なぜ浚われてしまったように感じるのだろう。
「塔矢が抱く?」
抱きしめられたまま、耳元で囁かれる。
熱い吐息が耳にかかって、僕は答えを失ってしまう。
「俺が抱いてもいい?」
進藤は僕から身体を少し離すと、僕の顎に手をそえ無理矢理顔を後ろに向かせると、そう聞いてきた。
じっと見つめられて、僕は思わず小さく頷いていた。


(9)
どちらでもよかった。
進藤がそれを望むなら、僕が抱いていただろう。
受け入れる受け入れないに意味はなかった。
一刻も早くこの火を鎮めたい。いま大切なのは、それだけだった。
頷いて顔を上げると、進藤が唇を寄せてきた。
今度は目を閉じて、キスを受ける。
苦しい態勢なのに、辛くはなかった。庭園での貪るような勢いはなかったが、むしろこちらのほうが僕を夢中にさせた。
進藤の舌が、僕の唇を割って忍び込む。
強引に歯列をこじ開けられて、あっと言う間に舌を絡められる。
やはり、無理な態勢だったのだろう。僕たちはもつれるようにして、畳の上に倒れこんでいた。
濡れた音を立てて、唇が離れる。
僕たちは、もどかしい思いで靴を脱ぎ、部屋に上がった。
部屋の中央に一組だけ布団がしかれていた。
その枕もとで、二人で服を脱がせ会う。
進藤が僕のネクタイを抜き取り、僕が進藤のサマージャケットを剥いだ。
先に脱ぎ終えた進藤が、夏がけを足で蹴り飛ばし、僕を腕に抱きこんで横たわる。
前髪がかきあげられ、顕になった額に唇が降りてきた。
それを皮切りに、進藤は僕の顔中にキスを雨のように降り注ぐ。
僕はそんな進藤の背中に腕を回し、しがみついていた。
そこで始めて気がつく。進藤に組みしかれていることに。
初めてであった時は、僕のほうが背が高かったのに、いつのまにか抜かされていた。
僕と違って骨格のしっかりした進藤は、まだ大きくなるのだろう。
進藤が、両肘をついて、体を起こす。
ほんの少し高いところから、僕を見下ろし囁いた。
「塔矢も……、俺のこと好きになってよ」
言葉の意味を把握しきれないうちに、進藤の唇が僕の唇を塞いでいた。
軽く触れ合わせたあと、進藤の唇が、僕の上唇を挟んで引っ張る。
進藤は瞼を閉じていた。だから、僕も目を瞑った。
目を瞑り、唇でふざけながら、僕は進藤の言葉の意味を考える。



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