光彩 7 - 9


(7)
ヒカルは上機嫌だった。
対局にも勝てた。
実は、睡眠不足とアキラのことで自信はなかったのだが、
棋院についた後、後者の悩みはきれいに消えてしまった。
我ながら単純だ。
アキラがいつもと変わらず自分に接してくれた。
それだけでもう安心してしまったのだ。

これは、アキラが返事を急がないということに違いない。
そうヒカルは解釈した。
アキラは本当に優しい。
アキラの些細な行動に、一喜一憂している自分をヒカルは自覚していなかった。


棋院を出て、帰る道すがらもずっと浮かれていた。
自然と笑みがこぼれる。
大声で歌でも歌いたい気分だった。

「ご機嫌だな。」
後ろから声をかけられた。
びっくりして振り返った。


(8)
「緒方先生・・・。びっくりしたぁ」
ヒカルが大きな目をさらに見開いて緒方を見た。
こぼれ落ちそうな目だな。緒方は思った。
緒方にとってヒカルは気になる存在だった。
小さいくせに生意気で、少女めいた愛らしい顔立ちをしているのに
口の悪い悪ガキだ。
アキラ君とは正反対だ。といつも思う。
そのくせ悪ガキの囲碁の才能はアキラに勝るとも劣らない。
だが、緒方にとって何より気になるのは
ヒカルがsaiとつながっているのではないかと言うことだ。
今はもうsaiはネットに現れない。
正直、ヒカルを問いつめたい気もするが、彼はきっと口を割らないだろう。
見かけによらず強情なのだ。

「先生 どうしてこんな所にいるの?」
緒方も今日は棋院にいたのだ。
用事を済ませて出ようとしたときにヒカルを見かけたのだといった。
その様子があんまり楽しそうで可愛かったのでつい見とれてしまい、
声をかけそびれた。
こんな悪ガキに見とれるなんて一生の不覚だと思った。

「じゃあ 先生ずっとみてたんだ。人がわりぃなぁ。」
ヒカルは顔を赤らめて、ぷぅっとふくれた。
自分の浮かれようを知り合いに見られていたのが、よほど恥ずかしかったらしい。
そのそっぽを向く仕草がよけいにヒカルを可愛くみせた。


(9)
「悪かったな。お詫びにメシでもおごろうか?」
緒方の申し出にヒカルはとまどった。
とても魅力的な提案なのだが、佐為のことを聞かれたらどうしようか?
緒方の 、佐為に対する執着心をヒカルは知っている。
緒方の気持ちが分からないでもない。
でも、どんなに望んでも佐為はもういないのだ。
緒方も自分も佐為にはもう会えないのだ。
それを認めるまでずいぶん時間がかかった。
それでも今も望んでいる。佐為に会いたい・・・と。

「どうした?進藤」
緒方が顔をのぞき込んでくる。
色素の薄い目で見つめられると、何もかも見透かされているような気がした。
佐為のことで警戒していたのもわかってしまっただろうか。

悩んだ末、結局ヒカルは緒方についていくことにした。
佐為のことは聞かれてもとぼけることにした。
うまくいきますように。
それに、ヒカルは聞きたいことがあった。
ヒカルの悩みを大人の人に相談したかったのだ。
アキラへの答えを出さなくては・・・。



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