初めての体験 Aside 番外・ホワイトデー 7 - 9


(7)
 そうか!やっぱり進藤が作ったんじゃなかったんだ!どうも、気が乗らないと思ったら、
進藤が可愛い手で“こねたり”“ねったり”“丸めたり”していなかったせいなんだな。
ボクの進藤センサーに狂いはなかった!
「でも、型はオレが抜いたんだぜ。」
ふうん………この可愛い型は進藤が抜いたのか………そう思うと突然愛しくなってくる。
けれど―――――ボクは星形のクッキーを手の中で弄びながら
「でも、ボクは焦げててもいいから、進藤に作って欲しかったな……」
ぽそりと呟いた。本当に小さな呟きだったのだが、その言葉を進藤が聞きつけて、
「えぇ!でも………………じゃ、今度、がんばってみる………」
と、頬を染めてボクに負けないくらい小さな声で囁いた。
 なんだか、また、ピンクとレモン色の雰囲気が漂い始めたので、ボクは慌てて話題を変えた。
「進藤、今日のその服すごく似合っているね!」
進藤は新しいパーカーを着ていた。明るいオレンジ色は元気な進藤にぴったりだ。
「ホント?オレも気に入ってるんだぁ。」
彼はボクによく見えるように、両手を広げた。うん…本当によく似合っている。今度、それに
あう靴をプレゼントしよう。
 今日はとてもいい日だ。ケーキを幸せそうに頬張る進藤を見て、ボクはしみじみと幸せを
噛みしめた。


(8)
 おまけ

 社が学校から帰宅すると、ヒカルから荷物が届いていた。きっとアレだ。この前、リクエスト
しておいたやつだ。

―――――それは数日前の出来事だった。
ぴりりりり、ぴりりりり…………
 翌日の授業の予習をしていた社は、面倒くさそうに携帯をとった。
「はい…もしもし…」
「あ、社?オレ!」
電話の主は、最愛の人、進藤ヒカルだった。
「し、進藤!?」
社は慌てて、居住まいを正した。見えるわけないのに、だらしなく着崩していたシャツの
ボタンを閉めたり、髪を整えたりした。
「荷物届いたよ。でも…こんな高いの本当に貰っていいの?オレ……」
ヒカルは、チョコしか渡してないよ?と、心配そうに聞いてきた。
 遠慮している。なんて、可愛いだろう。
「エエねん!進藤に着て欲しいねん!アレ見た瞬間、絶対進藤に似合うと思て、買(こ)うてんから………!」
電話越しに、握り拳で社は力説した。
「うん…ありがとう…ホントはオレもすごく気に入っているんだ。」
可愛い!可愛い!!可愛い!!!ここが大阪でなければ、すぐにでも会いに行けるのに…!
「けど、やっぱ、悪いからオレも何かお返しするよ。何がいい?」
お返しなんていらないのに……でも、貰えるものなら欲しいものがある。
「オレ、進藤の写真が欲しい。それ着たとこと、それから…………」
「それから?」
先を続けていいものかと悩む社を、ヒカルが促した。
「それから………進藤の小さいときの写真が欲しい……」
小さいときのヒカルは、今よりもっと小さくて、きっと可愛かったと思うのだ。今は、
可愛さプラス色気と美貌が備わっている。純度百パーセントの可愛いヒカルが見たいのだ。
「そんなのでいいの?他にないの?」
納得しかねるような様子ながらも、ヒカルは写真を送ることを約束してくれた。


(9)
 写真を送ってきただけにしては、大きすぎる荷物をドキドキしながら、ほどいていった。
予想通り中には、封筒が入っていた。
 封筒の中には、社のリクエストした写真と手紙が入っていた。
「あ、あ、やっぱ、メチャかわいい〜〜〜〜〜〜〜!」
社の送ったパーカーはヒカルにとてもよく似合っていた。ヒカルは、それを着たところ数枚と
約束通り、小さい頃の写真を一枚送ってくれた。小さい頃のヒカルはやっぱり小さくて、
頬をつつきたくなるほど愛くるしかった。
 社は、その写真と、オレンジ色のパーカーを着て笑うヒカルの写真をそっと定期入れに
忍ばせた。
「コレで、いつでも進藤と一緒や…今日はいい夢が見れそうや………」
ほうっと幸せの溜息を吐きながら、荷物を片づけようとして、中にまだ何かが入っているのを
発見した。
 そう言えば、手紙にクッキーを一緒に送ると書いてあった。写真があまりに嬉しくて
そっちの方を見過ごしていた。
「もう、オレのアホ!せっかくの進藤の手作りクッキーやのに………」
にやつきながら、フタを開けた。
「…………………………焦げとらへん……」
何故かきゅんと切ない胸に戸惑う社清春、高校一年。まだ肌寒い春の日の出来事であった。

終わり



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