無題 第2部 70


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「寒い…」
頼りない子供のような目で緒方を見上げるアキラを、無言のまま抱きかかえて寝室に運び、
ベッドに横たわらせ、毛布を掛けてやった。
そうして去ろうとする緒方の袖を、アキラが掴まえ、引き止めた。
黒い瞳が彼を見詰めていた。
吸い込まれるような、深い、深い、眼差し。
その瞳を、ずっと前からよく知っていた。
―いっちゃ、やだ。
舌足らずな口調でそう言って、彼の袖口をつまんで、引き止めた。
そうして、幼い彼が眠りにつくまで抱いてやった。
その瞳の色は今でも変わっていないのに。

この瞳に逆らう事は出来ない。それは、もうずっと昔からそうだったのだ。
―オレはいつだって気付くのが遅すぎる。いつも、いつも、今も。
今頃になってやっと気付くなんて、オレは馬鹿だ。
緒方はそんな自嘲を隠して、出来得る限りの優しい笑みで彼に応え、彼の横に潜り込んだ。
その身体にアキラがしがみついてきた。
小さな子供を寝かしつけるように、髪を撫で、優しく背をさすってやった。
寒さに震えていた子供は、やがて静かな寝息をたてて彼の胸の中で眠りについた。



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