誘惑 第三部 70
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「全く、失礼なヤツだな、キミは。ボクは今はキミのお母さんと話をしてるんだ。」
「ホントにごめんなさいね、塔矢くん。躾のなってない子で。」
「あ、いえ、そういうつもりじゃなかったんですけど…。」
「だからさあ、いつまでそんなオバサンのおしゃべりに付き合ってる気だよ。
ってゆーか、お母さんが悪いの。もお、いつまでもつまんない話で塔矢引き止めんなよ。
塔矢はオレのなんだから、早く返してよ。」
「進藤!」
いきなり叱り付けるように呼ばれて、ヒカルはびっくりしてアキラを見た。
「キミは!仮にも自分の親に向かってその口の利き方は何だ。」
「な、口の利き方って、なんだよ、普通じゃん。」
「普通なものか。大体キミはいつも目上の人に対する態度がなってない。
仮にもプロなんだから、いつまでも子供気分でいないで少しは改めたらどうなんだ。」
「なんだって?いきなり話し飛ばせんなよ。大体、それじゃ、おまえみたいに態度使い分けるのは
じゃあ、どうなんだよ?」
「ボクがいつそんな事を?」
「はあ?いつだってしてるだろ。自分だって外面良いとかって言ってたじゃねぇか。」
「それとこれとは別だろう。礼儀をわきまえるのは態度の使い分けなんかじゃない。」
ヒカルの母は目を真ん丸くさせて、いきなり子供のような言い合いを始めた二人を見た。
塔矢くんて、まあ、落ち着いた子だと思ってたけど、そうでもないのね。ふふ、可愛いわ。
「まあまあ、ヒカルも塔矢くんもそんなケンカしないで、」
と彼女は放っておくと止まりそうにない二人の間に割って入った。
「お母さんも悪かったわ、いつまでもオバサンの相手させちゃってごめんなさいね、塔矢くん。」
「あ、いえ、とんでもないです。」
殊勝げに応えるアキラに向かって、彼女はにっこり笑いかけた。
「ウチの子も本当にしょうがない子ですけど、
塔矢くん、ヒカルをよろしくね。」
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