平安幻想異聞録-異聞- 70


(70)
「それが、あんな苦しみもせず、暴れもせずに異形が結界を抜けてしまうなんて。
 そんなこと…こちらから呼ばない限りは有り得ない」
「呼ぶ?」
アキラは頷いた。
「こちらから、結界の中に招き入れるか、あるいはその妖魔を招き寄せる何かの『印』が
 結界の中にあるのでないかぎり、考えられないことだ」
ヒカルは黙って聞いていた。
「もちろん、ぼくは奴を呼んだりはしていない。だから、近衛、正直に答えてくれ。
 君は何か『印』を持っているんじゃないか?」
「ば、馬鹿言うな!誰が好き好んで、あんなの呼び寄せるって言うんだよ!」
「もちろん、君はそうだろうさ。でも、君自身気付かない『印』をどこかに持っている
 可能性があるんだ。最近なにか、君の周りで変わったこと、身に付けているもので
 変えたものはないか? 例えば、それは太刀の腰に履くための紐を変えたとかいう
 ささいな事でかまわないんだ」
ヒカルは考えを巡らした。身に付けるものを変えたといえば、自分はあの竹林の夜以来、
ずいぶん身の回りのものを新調している。太刀はなくしてしまったし、狩衣も指貫も、
汚れて破れてもう使い物にならなかったのだから。
それを正直に話すと、アキラは、ヒカルを再び褥の上に横たわらせ、丁寧にヒカルの
太刀を検分したあと、
『仕立屋の中に座間の手の者がいなかったとも限らない。表からわからなくても、
 生地の中側に何かの印が縫い込まれているかもしれない』
と言って、ヒカルの着物も丁寧に縫い目までほどいて調べはじめた。
調べ終わって溜め息をつく。
「ない?」
「ないな」
アキラがゆっくり首を振る。
「おまえ、取りあえず傷の手当てしてこいよ。見てるほうが痛いから」
「うん…。着物、まだ新しいのにほどいてしまって悪かった」
「いいよ、どーせ、もう使いもんにならないだろうし」
「とにかく、今は体を休めてくれ」
「ああ」
ヒカルはまだほとんど動かない体の首だけを巡らせてアキラを見た。
アキラはがっくりとうなだれて、空いた粥の腕を持ち立ち上がる。
部屋を出ていこうとして、不意に振り返った。
「まだ、調べてないものがあった」
「何?」
「君自身だよ」



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