初めての体験 70 - 78


(70)
 ヒカルが、固まったままの冴木にのしかかる。冴木は仰向けに倒された。
「し…進藤?」
冴木は狼狽えたように言う。ヒカルの顔が間近にあった。いつもと違う妖艶とも言える
その微笑みに、冴木の血が熱く滾った。目眩がしそうなくらい色っぽい。
「知りたいんでしょ?和谷がどうしてああなったのか。」
ヒカルは、もう一度、冴木にキスをした。今度はさっきより深く唇をあわせた。
 ヒカルは、冴木を和谷にしたのと同じように扱うつもりだったし、現に冴木はヒカルに
いいように嬲られていた。
 だが、突然、冴木の腕がヒカルの背に回され、そのまま、ヒカルは抱きしめられた。
冴木は、ヒカルの体を強く抱いたまま、くるりと位置を入れ替えた。
 そうして、自分の方から積極的にヒカルの唇をむさぼる。舌を絡ませ、思う様吸い上げる。
 漸く、唇が離れてヒカルは大きく息を吸い込んだ。まだ、鼓動が早い。
「知りたい…進藤…オレにも教えて。」
冴木はヒカルの唇のすぐ側で、そう言うと、ヒカルのTシャツの下に手を這わせた。
「え…?ちょっと冴木さん!?」
ヒカルがびっくりして、起きあがろうとしたのを、体重をかけて押しとどめた。
冴木はクスクスと笑いながら、ヒカルの肌の感触を確かめるように撫で続ける。
「さ…えきさん…?アン…!」
「教えてくれるんだろう?」
悪戯っぽく笑って、冴木が再び、ヒカルの唇を塞いだ。その間も手は絶え間なく、
ヒカルの肌を這い続けた。ヒカルのTシャツを首まで捲り上げて、
「進藤…ここにキスしていい?」
冴木が聞いてくる。ヒカルは、大きな瞳をさらに見開いて、冴木を凝視した。
冴木は、ヒカルの返事を待たずに、チュッと音を立てて、胸にキスをした。
端からヒカルの返事は期待してないと言うように…。そのまま、乳首を舐った。
甘噛みし、軽く吸う。
「んんん…あぁ…やだ」
 自分が主導権を握りながら、冴木を味わう……つもりだったのに…。
 これは…いったい…どういう事?
「ああぁん…やあ…」
ヒカルは、冴木に舌で胸の突起を嬲られ声を甘い悲鳴を上げた。


(71)
 冴木がヒカルの乳首に刺激を与えながら、ジーパンのベルトに手をかける。
「あ…ん…やだ…さえきさん…やめてよ」
ヒカルが吐息を噛み殺しながら、冴木に訴えた。
「嫌って何で?教えてくれよ。」
冴木が楽しそうに問うてくる。ヒカルは返事が出来なかった。
おかしい。上位に立つのは自分のはずなのに…。どうして…。
何か言おうとしたが、口からはハアハアという息が漏れただけだった。
 冴木はジーパンを脱がしにかかった。下着ごと、足から引き抜いた。
 「進藤。ここにもキスしていい?」
冴木が面白そうに聞いた。ヒカルのものは半ば立ち上がりかけていた。
「やだよ…やだ…だめ…」
ヒカルが半泣きで答えた。
「進藤の“嫌”は“いい”ってことだろ?そう教えてくれただろ?」
ヒカルの訴えを無視して、冴木の唇がヒカル自身に触れた。
「!」
ヒカルの体が跳ねた。舌先で先端を軽くなぶられる。キャンディーバーを舐めるように
全体を舐めたり、しゃぶったりした。
「あ…あん…あ…はあ…んん―――」
ヒカルが断続的に声を上げた。声が上がるのを止められなかった。
 「ここもいいよな?」
冴木の舌が後ろを這った。尻でずり上がって逃げようとしたが、腰をしっかり掴まれた。
「や…やだ…さえきさん…ああ……」
ヒカルは身悶えた。怖くなって、手で顔を覆った。体が震えていた。
 そんなヒカルを見て、冴木は口元でかすかに笑うと、後ろに指を侵入させた。


(72)
 冴木が指を動かすたびに、ヒカルの体がビクビクと跳ね上がる。
「やだ…やだよ…やめてよ…さえきさぁん!!」
ヒカルが泣きながら、頼んだ。
「和谷にも、そうやって可愛く泣いて見せた?」
ヒカルは必死で首を振った。冴木の声は笑いを含んでいた。
「違うの?じゃあ、どうやったの?」
ヒカルは首を振り続けた。冴木が淡々と、しかし、面白そうに聞いてくる。その声音とは正反対に、
心は酷く高ぶっているようだった。ヒカルの涙が、冴木の内にある衝動を突き上げていた。
「それじゃあ、わからない。教えてよ。」
ヒカルは、どうすればいいのかわからず、泣きじゃくるだけだった。
冴木はヒカルの知っている冴木ではなかった。
 冴木は、泣いているヒカルの腰を持ち上げると、自分の腰の位置に固定した。
「こんな風にされた?」
と、言って、冴木はヒカルをゆっくりと貫いた。

 「や───────────っ!」
ヒカルが細い悲鳴を上げた。
 冴木の全身を信じられない快感が駆けめぐった。
「あ…あ…いた…やだ…やだぁ…」
ヒカルが苦しげに喘いだ。ヒカルの切れ切れの吐息が、冴木の耳を打つ。
 だが、冴木は手加減無しに、ヒカルを突き上げた。
 冴木が動くその度に、内蔵が外に引きずり出される――――そんな錯覚をヒカルに起こさせる。
「ひぃ…きゃう…」
涙が散った。でも、それは痛みからだけではなかった。


(73)
 冴木の舌がヒカルの瞼を舐めた。そして、そのまま溜まっている涙まで舐め取った。
「やめて…さえきさん…あ…ぁあん…」
「進藤…進藤…いい…いいよ…アァ…」
ヒカルを容赦なく揺さぶりながら、冴木が満足げに笑った。…ような気がした。
「ん…は…はぁん…さ…えき…さぁん…や…」

「あ…ん…アァ―――――――ッ」
 体の中に熱いものが吐き出されたのを感じた時、ヒカルの意識は途切れた。




 冴木…森下門下期待の星。さすが、和谷の兄弟子。あなどれねえ。

「進藤、冴木さんって森下門下の人?どんな人?」
アキラが聞いてきた。声に何だか険がある。
ははぁ……やきもちだな…
ヒカルは表情に出さずに、心の中でにんまり笑った。
「優しくて面倒見のいいお兄さんだよ。ちょっと、つかみ所がないけどね。」
あんな人とは思わなかったなぁ。意外だった……ちょっと……良かったけど…。
「オレ、一人っ子だしあんな兄ちゃん欲しかったな。」
「そうか…そう言えば、ボクもお兄さん欲しいと思ったことあるなぁ。」
ヒカルの笑顔に安心したのか、アキラは、表情を和らげた。
 ヒカルは、静かに微笑むアキラをチラリと見やって、言葉を続けた。
「いるじゃん。ほら、あの人…芦原さん。」
「ああ。そうだね。うん、お兄さんみたいなものかな。」
ヒカルはアキラの顔に自分の顔を近づけ、そっと囁いた。
「ね…芦原さんてどんな人?強い?」
アキラは、間近にあるヒカルの唇の動きにドキドキしながら、答えた。
「芦原さんはあまり勝敗に執着していないみたい。いつも飄々としてて…。
 でも、真剣にやったら良い線行くんじゃないかな…」
「ふーん……そうなんだ…芦原さんって……そっか……」
ヒカルはアキラからちょっと体を離して、考え込むように呟いた。
「進藤?」
怪訝な顔をしているアキラに向かって、ヒカルは可愛く微笑んだ。
「ねえ。オレ、もっと塔矢門下の話を聞きたいな…あっちで…」
ヒカルは奥の部屋を指さして言った。
「し…しんどう…」
アキラの声がうわずった。だって、あの部屋は……。心臓の鼓動が早くなった。
 アキラはヒカルの肩を抱いて、急いで奥の部屋へと入って行った。

<終>


(74)
 「佐為……どうしていなくなっちゃったんだよぉ…」 
ヒカルは、佐為のことを思い出していた。一人でいると、時々、不意に、佐為のことを
思い出して、寂しくなる。
 ヒカルは、目尻に滲んだ涙をぐいっと手で拭いて、鞄を手元にたぐり寄せた。
そして、中から、愛用の手帳をとりだして、ぱらぱらとページをめくった。
 そこには、高名な棋士達の名前が羅列されている。
「だいぶ、増えたな…」
ヒカルは、にんまりと笑った。さっきまで泣いていたことなど、もう、半分忘れていた。




 ヒカルに手ほどきをしたのは、実は、佐為だった。初めて、佐為に会ったのは、
ヒカルが十二歳の時だ。まだ、自慰をしたこともなかった。それどころか、遊びに夢中で
そっち方面のことは、まるで知識がなかった。
 そんなヒカルに、佐為は、碁のことを教えるついでに、いけないことまで教えてしまった。
二百年ぶりに外にでられて、はしゃいでいたのかもしれない。まあ、ヒカルが自分好み
の少年だったことも大きな要因だろうが……。
 ヒカルは、佐為に碁を教えて貰っている間、妙な気分になることが度々あった。ヒカルには、
それが何だかわからなかった。もやもやして、言葉では表現できない、何とも言えない変な
気持ちだった。
 しかし、それが佐為のせいだとは思いもしなかった。ヒカルは、以前、佐為の心に
同調して、自分の体調が悪くなっていたのを、すっかり忘れてしまっていた。
 あれは、ヒカルが佐為の頼みをきいてあげなかったため、佐為の悲しみが、ヒカルの体調を
優れなくしていたのだと思っていた。今は、自分も碁に夢中になっているので、
佐為の影響を再び受けているなどと、考えても見なかった。


(75)
 佐為は、ヒカルの真剣な表情を見る度、自分に生身の肉体がないのを悔やんでいた。
普段は、あどけないヒカルが碁盤の前では、別人のように凛々しい。
『ああ……私に身体があったら……ふぅ………
 こんな風に眺めるだけで満足なんて絶対にしないのに……』
あんなことや、こんなこと――――――口ではとても言えないことを、この無邪気な少年に、
施して、泣かせてみたい……。
 佐為は、優しく美しいその笑顔の下に、激しい欲望を抱いていた。しかし、それは不可能だった。
佐為の想いは募る一方である。 そんな佐為の情欲が、ヒカルの身体に影響を与えていたのだ。
 『なんか…オレ…碁を打っていると…いつも変な気持ちになる…なんで…?』
ヒカルは、正座した足をムズムズさせた。
 佐為は、自分の身体の変化に戸惑っているヒカルの困ったような顔を見て、ますます、
興奮した―――――表面上はあくまでも、穏やかで優しい姿だった。その佐為の興奮が、
またヒカルに伝わって……。悪循環であった。
 とうとうヒカルが泣き出した。自分では、どうにも出来ない身体の疼きに、
耐えられなくなってしまったのだ。
「佐為……オレ…何か…変なんだよお…碁を打っていると身体が…熱くって…
 どうしよう…どうしたらいいの…さいぃ……」
ヒカルが、身体を捩らせながら訴えた。愛らしい口は、ハアハアと喘いでいる。小さな
手はズボンの前を押さえていた。



(76)
619 :初めての初めてsage :02/07/31 21:40
 佐為は口元に、美しい笑みを湛えて言った。
「ヒカル……それはヒカルが本当の碁打ちだからです。ヒカルの碁に対する
 想いが身体に快感を与えているのです。碁を打っていると、気持ちいいんでしょう?」
佐為の適当なウソ解説に、熱い身体を持て余して、悶えているヒカルは妙に納得してしまった。
「快感……てわかんないけど…気持ちいい…ような…悪いような…」
「でも…身体が熱くて堪んないよぉ……ねぇ…佐為…何とかしてよぉ……」
ヒカルは、熱い吐息で切れ切れになる言葉を、何とか吐き出し、佐為の次の言葉を待った。
「ヒカル――――では、私の言うことを聞きますか?」
神妙な顔で告げる佐為に、ヒカルは頷いた。
「どんなことでも――――ですよ?」
ヒカルは何度も何度も頷く。佐為の言うとおりにすれば、このヘンになった身体が治るのだ。
「では、着ている物を全部脱いでください。下履きも全部。」
佐為が託宣でも授けるように、厳かに告げた。


(76)
 ヒカルは佐為の言うとおり、全て脱ぎ去り一糸纏わぬ姿になった。もともと、いつも佐為に
見られているので、それに対する羞恥心は全くなかった。ヒカルは、自分のその無防備な様が、
佐為の情欲を煽り、現在、自分の身体に変調を来している原因だと知らなかった。

「佐為……ヘンだよ…オレの…腫れてる…病気かなぁ?」
ヒカルが、半分泣きそうな顔を佐為のに向けた。佐為は笑い出しそうになるのを堪えて、
わざと厳めしく告げた。
「大丈夫。私の言うとおりにすれば、すぐに治りますよ。」
ヒカルはコクンと小さく頷いた。その仕草の可愛らしいことと言ったら……。
 佐為は、ヒカルにベッドに腰を掛けるように命じた。そして、自分はその後ろにまわった。
佐為は、ヒカルを後ろから抱きかかえるようにして、まだ幼いヒカル自身に触れた。
実際は、佐為はヒカルには触れられない。触れたように見えただけだ。
「やだ…佐為…」
それなのに、ヒカルは小さく悲鳴を上げた。
 佐為がヒカルに触れた―――ヒカルにはそう見えた―――瞬間、身体に電気が走ったのだ。
佐為は、そのまま繊細な指先でヒカル自身を嬲り始めた。触られてもいないそこが、段々
熱くなっていく。
「あ…やぁ…やめてよ…」
「ヒカル…よく見て…私がやるのと同じように…自分でやるんですよ…」
佐為の言葉に頷くと、ヒカルはおずおずと自分自身に触れた。
「ふぁぁ!」
直に触れると、ものすごい快感が背中を駆け登っていった。


(77)
 「あ…あ…ああん…」
ヒカルは佐為を真似て、自らを懸命に嬲った。指で軽く輪を作り、上下にさすったり、
先端を指でくすぐったりした。
 チロチロと舌を覗かせながら、喘ぐヒカルはとても子供とは思えない色気を発していた。
その姿に佐為の情欲はますます高まる。
「あふ…はあ……あぁ!」
ヒカルは、小さく呻いて、自らの欲望を解放した。掌には、初めて自分が放出した物が
べったりと付いていた。青臭くて、変な匂いだ。『早く手を洗いたい』とヒカルは思った。
 「ヒカル…それを指先になすりつけて、後ろに入れるんです。」
佐為が、まだ息の荒いヒカルに命じた。
「……?後ろって……お尻のこと!?」
ヒカルが、呆然と佐為を見つめた。佐為は黙って頷いた。
「え!やだよ!汚いじゃん――そんなとこに指を入れるなんて―――」
一気に身体の熱が引いた。ヒカルは佐為に猛然と抗議した。
 「でも、ヒカル…それじゃ、まだ、物足りないでしょう?」
佐為が、氷山でも溶かしかねない熱い眼差しを、ヒカルに向けた。途端に、一旦静まった
はずのヒカルの身体が、ドクンと熱く脈打ち始める。
「え…?ウソ…?治ったんじゃないの?へんなやつ出して腫れが引いたのに……」
ヒカルが狼狽えた。物足りないのは、ヒカルではない。佐為である。彼は、もっともっと
ヒカルが幼い身体をくねらせて悶える様を、ヒカルの痴態を見たかった。
 触れることが出来ないのなら、せめてヒカルの全てを余すところなく見つめていたい。「ね?まだ、足りないんですよ。」
佐為がヒカルにニコリと笑いかけたとき、ヒカルはもう喘ぐことしか出来なくなっていた。


(78)
 ヒカルはベッドの上で四つん這いになった。そして、佐為の言うとおり、自分の
放った物を指の先につけて、後ろに回した。だが、さすがに中に指を入れることには
抵抗があって、ヒカルの指は周辺を彷徨った。だが、佐為に無言で促され、ゆっくりと
中指をそこに沈めた。
「うぅ……!」
痛みに呻くヒカルに、佐為の静かな声が届く。
「そうです。そのまま、前後に動かして…」

 ヒカルは、佐為の言葉のままに、一本ずつ指を増やし、操った。
「は…あ…あぁ…」
いつしか、ヒカルの唇からは苦痛の呻きではなく、快感に啼く甘い声が紡ぎ出されていた。
だが、その甘い声に苦痛の色が混じり始めた。
「あ…だめ…だめ…だめ…だめだよぉ……」
身体の奥がくすぶって熱いのに、ヒカルの小さな指ではそこに届かない。自分の行為で
悪戯に身体を煽られ、ヒカルはますます身悶えた。佐為は『自分に肉体があれば、ヒカルの
望みをすぐに叶えてあげられるのに……』と、臍を噛んだ。
 ふと、机の上を見ると、ヒカルの筆記用具が散らばっていた。そこには、十五センチ程度
長さのマジックペンがあった。それほど、太くなく、まだ幼いヒカルには、これで十分
だと思われた。



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