誘惑 第三部 71
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「えっ?」
何気なく言われた一言に、一瞬固まったアキラは次の瞬間顔を真っ赤にさせてどもった。
「あっ、あのっ、ボクは、その…」
「ナニ、慌ててんだよ?塔矢。」
「あ、いえ、えーと、こちらこそ不束者ですが…」
的外れな返答をしかけたアキラの頭を、ヒカルがベシッと叩き、
「バカッ、なに言ってんだよ、おまえは。ホラ、上行くぞ。」
赤くなりながらお辞儀しかけたアキラの腕を無理矢理掴んで、引き摺るように二階へと向かう。
「おまえ、バッカみてー。よろしく言われたくらいでなにそんなに慌ててんだよ。」
「何も、急に言われたからちょっとびっくりしただけだ。」
「別にあせるような台詞じゃねぇだろ。普通じゃん、子供の友達によろしくね、って言うくらい。」
妙にうろたえた様子で赤い顔でヒカルを睨み上げるアキラに、ヒカルが思わずぷっと吹き出す。
「カッ、カワイイ、塔矢、おまえ、カワイ過ぎ。」
「なっ!進藤!ふざけるな!ボクのどこが、」
「わかった、わかったから、あんまりデカイ声出すな。」
ヒカルはケラケラ笑いながら憤慨しているアキラの腕を掴んで、自分の部屋へ引っ張りこむ。
そしてまだ顔を赤くしたまま、怒ったような、居心地の悪いような顔でヒカルを見ているアキラに
向かってヒカルが言う。
「まったく、コレがさっきオニみたいな顔してオレを叩きのめしたヤツと同じ人間かよ?」
からかうように言うと、アキラが更に顔を赤くさせてヒカルを睨みつけるが、はっきり言って全然
迫力なんかない。
「でもオレはあーゆーオニみたいな塔矢も好きだし、」
と言って斜めにアキラの顔を覗きこみ、
「そうやって真っ赤になって照れてる塔矢も大好き。」
間近に迫ったヒカルに一瞬アキラが目を見開いた隙をついて、ヒカルがアキラの唇にチュッと
軽くキスすると、アキラはそのまま動けなくなってしまった。
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