誘惑 第三部 71 - 72
(71)
「えっ?」
何気なく言われた一言に、一瞬固まったアキラは次の瞬間顔を真っ赤にさせてどもった。
「あっ、あのっ、ボクは、その…」
「ナニ、慌ててんだよ?塔矢。」
「あ、いえ、えーと、こちらこそ不束者ですが…」
的外れな返答をしかけたアキラの頭を、ヒカルがベシッと叩き、
「バカッ、なに言ってんだよ、おまえは。ホラ、上行くぞ。」
赤くなりながらお辞儀しかけたアキラの腕を無理矢理掴んで、引き摺るように二階へと向かう。
「おまえ、バッカみてー。よろしく言われたくらいでなにそんなに慌ててんだよ。」
「何も、急に言われたからちょっとびっくりしただけだ。」
「別にあせるような台詞じゃねぇだろ。普通じゃん、子供の友達によろしくね、って言うくらい。」
妙にうろたえた様子で赤い顔でヒカルを睨み上げるアキラに、ヒカルが思わずぷっと吹き出す。
「カッ、カワイイ、塔矢、おまえ、カワイ過ぎ。」
「なっ!進藤!ふざけるな!ボクのどこが、」
「わかった、わかったから、あんまりデカイ声出すな。」
ヒカルはケラケラ笑いながら憤慨しているアキラの腕を掴んで、自分の部屋へ引っ張りこむ。
そしてまだ顔を赤くしたまま、怒ったような、居心地の悪いような顔でヒカルを見ているアキラに
向かってヒカルが言う。
「まったく、コレがさっきオニみたいな顔してオレを叩きのめしたヤツと同じ人間かよ?」
からかうように言うと、アキラが更に顔を赤くさせてヒカルを睨みつけるが、はっきり言って全然
迫力なんかない。
「でもオレはあーゆーオニみたいな塔矢も好きだし、」
と言って斜めにアキラの顔を覗きこみ、
「そうやって真っ赤になって照れてる塔矢も大好き。」
間近に迫ったヒカルに一瞬アキラが目を見開いた隙をついて、ヒカルがアキラの唇にチュッと
軽くキスすると、アキラはそのまま動けなくなってしまった。
(72)
「……よく、そんなに恥ずかしげもなく好き好き言うな、キミは。」
顔を真っ赤にさせたまま、ヒカルを睨みつけて、アキラは何とか言葉を返す。
「だって言えるうちにいっぱい言っとかなきゃな。」
言わなくてもわかるだろ、なんて黙ってちゃダメなんだ。言わなきゃ届かない事だってあるんだ。
言えずに後で後悔するのなんて嫌なんだ。だってオレはアイツが大好きだったのに、好きだよ、
ってちゃんと言わないうちに、アイツはいっちゃったんだ。塔矢がアイツみたいにどっか行っちゃ
うかも知れないなんて、そんなの、考えるだけで嫌だけど。
だから、オレは塔矢が好きだから、何度だって言う。それに、どんなに言ったって、きっと言い足
りない。オレが塔矢を好きだって気持ちには追いつけない。
それにさ。好きだって言っただけでおまえのそんなカワイイ顔見られるんなら尚更、何度だって
言ってやるぜ。
「塔矢、好きだ。」
肩に手をかけて、耳元に唇を寄せて、ヒカルが言う。
「好きだ。世界中で一番好きだ。塔矢、」
そして至近距離にあるアキラの目を見つめる。
うわ、ダメだ。コイツ、からかってやろうと思ったのに。こんな近くでコイツの目なんか見ちまった
ら、ダメだ、くらくらする。死にそうだ。
ヒカルはアキラの目から逃れるように目を伏せ、そのままそっと唇を重ねた。
そして逃げそうになるアキラの肩を掴まえて、もう一度、唇を重ねる。今度はさっきよりも少し深く、
ゆっくりと。
するとアキラが軽く口を開き、彼の舌がヒカルの唇を軽くなぞる。応えるように口を開き差し出し
た舌が触れ合うと、心臓が痺れるように感じた。
今度は逆にアキラがヒカルの身体を引き寄せ、ヒカルを絡めとり、探る。
深いキスを交わすうちに、いつの間にか二人は床に横たわり、互いの手で互いの身体を探り、
互いの熱を煽るように脚を絡めあう。
|