誘惑 第三部 72


(72)
「……よく、そんなに恥ずかしげもなく好き好き言うな、キミは。」
顔を真っ赤にさせたまま、ヒカルを睨みつけて、アキラは何とか言葉を返す。
「だって言えるうちにいっぱい言っとかなきゃな。」
言わなくてもわかるだろ、なんて黙ってちゃダメなんだ。言わなきゃ届かない事だってあるんだ。
言えずに後で後悔するのなんて嫌なんだ。だってオレはアイツが大好きだったのに、好きだよ、
ってちゃんと言わないうちに、アイツはいっちゃったんだ。塔矢がアイツみたいにどっか行っちゃ
うかも知れないなんて、そんなの、考えるだけで嫌だけど。
だから、オレは塔矢が好きだから、何度だって言う。それに、どんなに言ったって、きっと言い足
りない。オレが塔矢を好きだって気持ちには追いつけない。
それにさ。好きだって言っただけでおまえのそんなカワイイ顔見られるんなら尚更、何度だって
言ってやるぜ。
「塔矢、好きだ。」
肩に手をかけて、耳元に唇を寄せて、ヒカルが言う。
「好きだ。世界中で一番好きだ。塔矢、」
そして至近距離にあるアキラの目を見つめる。
うわ、ダメだ。コイツ、からかってやろうと思ったのに。こんな近くでコイツの目なんか見ちまった
ら、ダメだ、くらくらする。死にそうだ。
ヒカルはアキラの目から逃れるように目を伏せ、そのままそっと唇を重ねた。
そして逃げそうになるアキラの肩を掴まえて、もう一度、唇を重ねる。今度はさっきよりも少し深く、
ゆっくりと。
するとアキラが軽く口を開き、彼の舌がヒカルの唇を軽くなぞる。応えるように口を開き差し出し
た舌が触れ合うと、心臓が痺れるように感じた。
今度は逆にアキラがヒカルの身体を引き寄せ、ヒカルを絡めとり、探る。
深いキスを交わすうちに、いつの間にか二人は床に横たわり、互いの手で互いの身体を探り、
互いの熱を煽るように脚を絡めあう。



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