平安幻想異聞録-異聞- 72
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言われてみれば、その長い傷跡の重なり具合は、何かの文字か文様のようにも思えた。
「それ、なの?」
「うん、これだね」
そう言ったきり、アキラは黙り込んだ。
「なんだよ、見つかったんだろ、よかったじゃん」
「いや、もっとやっかいな事になってしまった」
アキラは苦しげに言った。
「すまない、近衛。僕にはこの『印』の力を解くすべがない。いや、僕でなく誰であっても
無理だろう、この呪をかけた本人でなければ」
「どういうことだよ」
「これは、近衛。君自身の肌に君自身の血で描かれた、最も強力な呪符なんだよ」
沈黙が流れた。
最初に沈黙を破ったのはヒカルだった。
「駄目なんだ?」
「…………」
「今夜も来るんだろ、あれ」
「おそらくね」
再び少しの静寂。
「いや、まったく手がないわけじゃない、近衛」
「賀茂」
「それが駄目なら、こちらから積極策に出て、元を断ってしまえばいいことだ」
「あの、蛇みたいのをやっつけんのか?」
「いや、もっと元だ。言っただろう? 蠱毒には、蟲やら蛇やらを詰めて埋めた壺を
使うんだ。それを見つけ出して破壊する」
「そんなこと出来るんだ?」
「できる」
きっぱりと言いきったそのアキラの瞳が、言葉とは裏腹に不安げに揺れていた。
だから、ヒカルは、どうしようかと迷ったけれど、聞いてみることにした。
「その壺ってさ、どこにあるんだ?」
アキラが目を細めて、天井を振り仰いだ。
「――それを見つけ出すのが、僕の腕の見せ所というわけさ」
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